※既刊「ベリーを摘んだらダンスにしよう」おまけ本再録です。
所長が幼女になって元に戻ってしばらくしてからのお話。


 日差しが強い。
 学業を終えて探偵社に戻った雷堂はひとまず顔を洗ってから鳴海の自室へ足を向けた。大抵は所長席でおかえりを言ってくれるけれど、そこに姿が無いと言う事は何か用事があって部屋に居るのだろう。出かけるなら書き置きぐらいはしてくれるはずだ。
 廊下の窓から見える景色は青が遠く、雲一つない快晴だった。日陰に居れば風が吹いて涼しいけれど陽を浴びれば汗がじわりと肌に滲んでしまう。夕立でも降れば良い、と思いながら扉を叩けば予想通り上司は部屋に居た。
「ただいま戻りました」
「おかえり。暑かったろ、氷でも喰いに行くか」
 言って笑う鳴海の手には畳まれた小さな浴衣がある。見覚えがあり過ぎるその布地を目にし、雷堂は僅かに瞠目してから息を吐いた。
「……すまん」
「お前が謝る事はなーんもない。これ私のなんだろ。ありがとな」
「礼を言われる事でもないし、気を悪くしたならすまない」
「悪くなるわけないってのがわかんないかねェ。……素直にうれしいよ。ガキが……私がよろこぶと思って用意してくれたんだろ」
 白地に大きく色とりどりの朝顔が咲くそれはこどもらしくかわいらしい。拡げ掲げていたのをきっちりと畳み直す鳴海を雷堂はただじっと見ていた。
 帝都を揺るがす事件ではないが、この一月程鳴海探偵社は所長が幼女になってしまうという騒動に振り回されていた。色々あったものの鳴海は先日漸く元の姿に戻り、こうして今はいつもの生活を営んでいるけれど。
「その通りなのだが、鳴海さんが戻るのを信じていると言いながらそういう準備をしていたのは、その、」
「私が戻らないと思ってたみたいだって? そんなの当たり前だろ、どうにかうまくいって戻れただけで、ガキのまま今日まで過ごしてた可能性だって大きいんだよ。お前だって私だっていつ戻るかわかんなかっただろ。ならガキのために祭の仕度してくれてたってんなら、私はうれしいだけなんだけどなァ」
 今日が祭だなんて忘れてた。煙草を手繰り寄せ火を灯しながら鳴海が言う。鳴海越しに見える窓の外、切り取られた空からは遠くお囃子の音が聞こえている。普段なら祭に雷堂を連れ出すのは鳴海の方なのに、元に戻ってからは回復しきらないのか眠っていることが多い。あまり出歩かず探偵社でごろごろしていれば筑土町界隈が祭支度に追われていた事に気付きにくかっただろう。
「着たら似合ってたかな、ちょっと惜しいなァ」
「きっと似合っていた」
「そう」
 畳んだ浴衣を胸元に当てて笑う姿に少女の笑顔が透けて見え、自分が見立てたとはいえ間違いなく似合っていたと思える。雷堂が素直に口へ出せば鳴海はそれなりうれしそうな様子で浴衣を丁寧に仕舞い込んでいた。
 少女の世話をしていた時に着替え置きに使わせてもらっていた棚の存在を、すっかり忘れていた己を殴りたいと思いながらそれでも雷堂は口にする。
「その浴衣は着れんが、祭を楽しむ事は出来るだろう」
「あらーデェトのお誘い?」
「……そうだ」
「照れんなよ雷堂ちゃん。じゃあ涼しくなったら行こうか、この日差しがあるうちじゃ私は溶けちまうわ」
 そうして出かけたのは日が沈み出した頃合いで、露店を素見す頃には夜になっていた。それでも夏の夜は随分と暗くなるのが遅い。暗い薄青の空の下、賑やかな通りを並んで歩く。
「一つだけ聞いても良いだろうか」
「なんだい」
 互いに浴衣を身に纏い、相変わらずその長くはない癖毛がどうまとまっているのかちっとも理解出来ないまま、普段は見えない項を眺める。祭の雰囲気はどこか浮世離れしていて不思議だった。この常ならぬ空気なら聞いてもいいか、と無理矢理に理由を付けて雷堂は口を開く。
「先日の件だが……鳴海さんは子どもだったら我を好きでも世間に顔向け出来ると思った、と言ったな。ならなんであんなに小さかったんだ」
 鳴海が子どもになった騒動で知れたのは、子どもの姿は鳴海が奥底で持っていた願いを掬いあげられたものだといういうことだ。
 雷堂と鳴海は一回り以上離れているけれど、あの少女だって一回りまではいかなくてもそれに近いぐらい離れていたように思う。確かに恋人同士なら男の側が年上であるのが一般的だろうが、それにしたってあそこまで離れていなくてもいいのではないだろうか。世間体を考えるなら同い年あたりが妥当のはずなのに。
「あー、それは」
 がりがりと癖毛をひっかきながら鳴海は視線を逸らし、どこから貰って来たのか小さな提灯を揺らして口を噤んでしまった。祭の喧噪へ向けられたそれを戻したいと思う気持ちを堪え、雷堂は答えを待った。鳴海を責めるつもりは無い。
ただ単に納得出来ないだけだ。
「まあ私も子どもになろうと思ってなったわけじゃないから、予想でしか無いんだけど」
「ああ」

「多分だけど、私がお前に顔向け出来る女の子だった、って頃があれぐらいだったんじゃないかねェ」

 お、あれ美味そう。
 乱した髪を適当に撫で付け、鳴海は並ぶ屋台の一つへ行ってしまった。店主は顔見知りの親父で鳴海を見つけて先に声をかけている。店主と細君と三人で楽しげに話しているのを眺めながら雷堂もゆっくりと屋台へ足を進めた。
 雷堂が知る鳴海の過去は元陸軍密偵であることぐらいだ。それだけは本人から聞かされている。ただそれ以前のことが鳴海の口から出て来た事は無いし、過去の話と言えばぽつぽつと宗像将校の世話になった話が零れるぐらいだった。密偵になる前の話は何も知らない。
 初めて身体を繋げる前に、お前が思うよりは酷い事も汚い事もしてきたんだよ、と言われた事がある。その時はそんなもの今の鳴海を想う気持ちに関係ないと思ったしそう告げた。今でも気持ちに変わりは無い。
 ただ、あの少女ぐらいの頃の鳴海が少し育てば「酷い事も汚い事も」経験してしまうのだとしたら。
「――鳴海」
「ん?」
 振り返る鳴海の口には既に団子が詰まっている。手に持つ一本を雷堂に差し出し笑う顔はいつも通りのものだ。
「ほい、お前の分も貰ったよ」
「ありがとうございます」
 鳴海と店主夫妻へ頭を下げ、口にすればやわらかな甘味に少しだけ心がほぐれた。
 過去は覆らない。
 雷堂の永いとは言えない人生の中でも十分知っていることだ。少女へ、鳴海へ哀れみを持つのは、その時側に居ることが出来なかった雷堂には傲慢が過ぎるだろう。
「相変わらず別嬪さん連れ回して良い夜だね、鳴海ちゃん」
「あはは、良いでしょう」
 雷堂を連れて町を歩く鳴海にそんな声をかける知り合いは少なくない。雷堂からすればどうでもいい己の外見が原因で、女学生を中心として王子様だなんて呼ばれているのは筑土町の人間なら誰でも知っていることだ。
 もちろんただのからかいで知り合い達に悪気はこれっぽっちもない。雷堂も親しくさせてもらっていると思うが、雷堂から見れば己より遠慮のない言葉をかけられているかもしれないけれど鳴海の方がよっぽどかわいがられていると思う。それは目の前の店主夫妻でも同じ事だ。
 どぉん、と大きな音が響いて河原から歓声が上がる。揃って空へ顔を上げれば星よりも強い瞬きがきらきらと落ちていくところだった。
「始まったね」
「綺麗ねぇ」
 のんびりと言う夫妻に鳴海もへらりと笑った。雷堂には背を向ける格好になったまま、既に言付けていたのか細君から紙袋を受け取っている。
「ほんと。花火は綺麗だし団子は美味いし別嬪な、旦那も居るし良い夜ですよ」
「旦那か、こりゃいいや」
 からからと笑う店主と細君は鳴海の軽口だと思ったのか、楽しげに鳴海を小突いて紙袋へ饅頭を無理矢理押し込んで来た。旦那の好物おまけしとくから。礼を言って先へ進む鳴海の顔は勿論見えない。
「鳴海さん」
 雷堂も夫妻へ礼を言って後を追うが、人混みを何故だかするすると進む鳴海になかなか追いつけない。小走りに追いかけ、露店の端まで着た所で漸くその腕を掴んだ。
「鳴海さん」
「何だよ」
「さっき我の事を旦那と」
「ああうん、冗談だよ冗談。おじさん達も笑ってたろ。それよりこっち、花火見やすいとこあるから」
 腕を掴まれたまま進む鳴海は一度も後ろを振り返らない。露店の賑わう通りから外れて幾つか細い路地を抜け、提灯の灯りを頼りに暗い林道をくぐり抜けた先にはちいさな社のような建物があった。幾つもの木々越しに遠く露店の光が見える。まだ夜が深くは無く星が多い為か辺りは薄明るい。それでも空に上がる花火が美しい事に代わりは無かった。
「おー、やっぱ綺麗だな。さっきの獣道通らないと来れないからここだと夜は滅多に人がいないみたいでさ。お前みたいに夜目が効けば別だけど」
「鳴海さん」
 手招かれて社への数段しかない階段へ腰掛ける。菓子を食えよ、と促されても好物の筈の甘味を口にするどころではなくて、雷堂は煙草を燻らせだした想い人の手をそっと取った。
「冗談でも」
「それ以上言うなよ」
「我はうれしかった」
 言って掬った手の甲に唇を押し当てる。黙ってしまった鳴海を窺えば反対側を向いて煙草を吸っているだけだ。慣れた香りを感じながら小さく笑い、そのまま鳴海の身体を後ろから腕の中に仕舞い込んだ。
 鳴海が雷堂との仲を隠そうとした事は一度も無い。無いけれど、聞かれない限りは口にしないし聞かれたら冗談めかして肯定する。そんな鳴海の態度や日頃の性格に誰もがそれを真実だと捉えなかった。要は冗談になってしまっていたということだ。それが鳴海の逃げだということも、互いが帝都で過ごすため楽な方法だということもわかっている。少なくとも雷堂が少年に分類される歳である現時点では。だから不満を抱えていても雷堂の口から言いふらすようなことはしていない。
「本当だからな」
「疑ってない、よ」
 鳴海の身体からゆるゆると力が抜け、雷堂に凭れ掛かる。しっかりと抱え、煙草の始末をするのを見届けてから腕に力を込めた。こうしている間にも見事な花火が打ち上がっている筈なのに、社や地面への光の明滅と音でしか花火を味わっていない。思わず笑っても体勢を変える気にもならなかった。
 例え冗談だとしても鳴海の側から他者に向けて、雷堂が恋人だという発言があった。相手に信じられていないとしてもそれは雷堂からすればとんでもない事態だ。どれだけ願っても叶えられなかったのに、先日の騒動で鳴海にも何か思う所があったのだろうか。鳴海しか持たない答えを雷堂が導き出せることは無いのだけれど。
 我ながら浮かれた気持ちのまま、女の細い項へ口付ける。唇で知る肌が熱いのは気のせいではないと思いたかった。
「……らーいどうちゃん」
「何だ」
「いや、その……あたってんだけど、さ」
 浮かれているのと鳴海に触れているのと二人きりなのと、原因は色々と思い付くがまあ身体の反応はあからさまで、密着している鳴海には言い訳もできない。情けなさに一度溜息を吐き、名残を惜しんで固くなった肉を想い人へ擦り付ければ其の身体がびくりとふるえた。その反応に思わず喉を鳴らしかけ、こんなところで何を欲情しているんだと己へどうにか言い聞かせる。
「すまん」
「いや、いいけど」
「情けない、が、その、おさまるまで……っ、何を」
 鳴海の肩を掴んで密着した身体を離せば空いた隙間が寂しかった。触れていれば欲が増すばかりだから距離と、できれば一人の時間を取りたいと言うつもりだったのに、後ろ手に女の細い手が雷堂の股間を撫ぜる。
「鳴海さんッ」
「……いいよ、ここまでおっきくなったらつらいんだろ、たぶん人とか来ないし」
 正直に言えば鳴海が触れさえしなければ後戻りできたと思うけれど、言いながらその指はいやらしく動き続けている。これだけ素直に反応するのはどうかと自嘲するのも相手が鳴海なのだから仕方ないと思うのも本音だ。
「――すまん」
 結局雷堂に出来る事と言えば想い人の言いなりになる事ぐらいで、幾ら滅多に人が来ないとはいえ一応、と社の裏まで移動する。
 まだ花火はあがり続けていて夜空のあちこちが明るい。どぉん、と鈍い音や虫の声で耳は埋まってしまう筈なのに、鳴海の立てる水音がいやにはっきり聞こえて腰までぞくぞくと何かが走った。
「ん」
 雷堂の前にしゃがみ込み、想い人は戸惑う様子すら見せずに股間へ顔を埋めた。確かに戸惑いなんて生まれないぐらい何度も繰り返して来た行為で、される側の雷堂だって慣れたと言えるぐらいなのに。いつもいつも身体は鳴海が施す快楽に陥落する。
「こんな、外で、すま」
「だから謝んなってば……はは、でもすぐがっちがちだなお前」
 どうせ弱い所などとっくの昔に知られているのだからそうなるのは当然だ。舌と唇の感触で笑えるぐらい簡単に肉は張り詰めて、鳴海に弄られる度先走りを零す程になった。ちろちろと舌先が敏感な部分を辿れば思わず声が漏れそうになる。
「気持ち良い?」
 気持ち良いも何も、そもそも想い人がこちらの欲を弄りながら上目で見てくるだけで反則に近い。あまり見かけない浴衣姿なら尚更だ。鳴海ならわかってやっていそうなものなのに瞳へほんとうに不安が映っているように見えて仕方が無い。その様まで雷堂の欲を煽るものでしかないのだけれど。
「あたり、前だ」
 荒い息になってしまうのを隠す事も出来ず、雷堂は刺激を求めて鳴海の頭をぐっと引いた。大人しく従った女は雷堂の片腿に手をかけてバランスを取ると、先端から根元近くまで口付けて進み玉を口に含む。唇で弄ばれるのも、空いた手が肉を扱き先端を抉るのも、腿に置かれた手の指が悪戯に肌を引っ掻くのも、呆れる程情欲の燃料にしかならない。興奮にふるえる手で鳴海の髪を掻き乱し、耳元を弄れば与えられる刺激はぐんと強くなった。
「でる、」
 あっさり吐精した雷堂の白濁は鳴海に飲み込まれ、零れたものも濡れた舌に拭われてしまう。思わず掴んでしまった癖毛を詫びを込めて撫でつけながら鳴海を窺えば、頬を上気させた女がぼんやりと雷堂を見上げていた。
「は……」
「鳴海」
 蕩けた顔を見てしまえばざあっと何かが背を走り、雷堂は鳴海の腕を掴んで引き上げると今まで凭れていた木にその身体を押し付ける。
「え、ちょ」
 鳴海が何か言っているけれど煮えた頭ではちっとも聞こえない。胸元を寛げ、手を差し入れて胸を掴めばひくりと女が身を竦めた。鎖骨辺りを吸い上げて痕を残していると耳を強く引っ張られる。
「待て待て、続きは家でいいだ、ろっ」
「鳴海のせいでおさまらん」
 それに誘ったのは鳴海だ。
 耳元で押し込める様に囁けば、ぐっと息を飲んだ鳴海は一度雷堂を睨みつけてから唇を重ねて来た。潤んだ眼ではちっとも怖くないとわかっているだろうに。舌を絡め、唾液を啜りながら浴衣を捌いてその太股へ直に触れる。
「ッ、あ」
 やわらかな肌を辿って付け根まで指を滑らせればそこはもう随分と潤っていて、何度か弄るだけですぐに雷堂の指を飲み込んでしまった。流石に恥ずかしかったのか鳴海が腰を引こうとしたけれど、背後の木と雷堂の身体で挟んでしまえば逃げ場は無い。ぐじゅぐじゅと掻き回す度に鳴海の喉から上がる悲鳴を受け取って飲み込む。
「あ、ばか、んな急に……ッ」
 片足を持ち上げてどろどろのそこへ固さを取り戻した肉をあてがえば、ぽろりと鳴海が涙を零した。それは快感から生まれるものだと理解はしていてもただでさえ五月蝿い心臓が鼓動を荒げる。唇で吸い上げ、肉を押し付けると淫らな水音と鳴海の涙が増した。
「ひ」
 ゆっくり肉を差し込んでいけば女は雷堂の肩を掴む手にぎゅうっと力を込める。みちみちと襞を拡げながら進み、やがて奥まで辿り着くとどちらともなく大きな息を吐く。
「最後までする気、なかったのに」
「我は最初もなかったのだが」
 雷堂が正直に答えると想い人は眉を下げて笑い、雷堂の頭を手で引き寄せそっとしがみついてきた。みじろぐ度に繋がった部分がぐちゅりと粘ついた音をたてるのに似合わない、やさしい仕草で。
「な、もぉ、がまんできない」
 続きして。
 請われてしまえばかあっと頭に血が昇り、雷堂は抱えた足をさらに上げて鳴海を木に押し付け肉を付き入れた。
「っあ!」
 鳴海も後ろ手に木の幹を掴みもたれくれる体勢のおかげか、立ったままの不安定さはそれほど感じない。いつもより大きく腰を回して中を探ってやるとくぐもった嬌声が聞こえてくる。確かに滅多と人が来ない場所とはいえ可能性が消えた訳では無く、声を殺す鳴海の行動は正しいのだと雷堂も判断する事が出来る。それでも。
「鳴海」
「あ、ひぁ、それだめ、あたって」
 声が聞きたい。乱れた様が見たい。そして見てもいいのは己だけだ。
 揺れる腰を掴んで引き寄せ、鳴海の弱い所を狙える位置で滅茶苦茶に突き上げれば女の喉が綺麗に反った。身体を揺らしても雷堂が足の間に陣取っている限り身を起こす事が出来ないし、掴まれた足をそのままに暴れても自重も相まってもっと深く雷堂を飲み込むだけだ。
「――ッ」
 びくりとふるえた身体を抱きしめ、弛んだ胸元の肌に痕を残す。律動を止めてざわつく内側の感触を堪能していると鳴海に髪を引かれた。
「こ、ら。何遠慮してんだ」
「遠慮ではない、んだが」
 鳴海が絶頂を迎えたばかりで気遣っているというのももちろんあるけれど、それよりは果てた女の感触を味わいたいという欲の方が大きい。言っても仕方がないことなので口には出さず、手を伸ばす女に自ら掴まって唇を重ねた。
「ん」
 首にしがみつく鳴海を強く抱き、尻の肉と腰を強く掴んで引き寄せる。雷堂に体重をほぼ預ける格好に繋がったところがぐじゅりと音を立て、鳴海の嬌声を舌先で受け取りながら腰をゆらめかせた。
「んぅ、あ、綾、奥、おく……ぅ、」
 遠慮なく先端で最奥を抉る度に想い人からは甘い声が漏れる。揺さぶる刺激に唇が外れ、鳴海が耐えきれなくなったのか雷堂の首筋に顔を埋めた。ひ、ひ、とすすり泣きのような声を吐息ごと捧げられてしまえば背中に回っている手が爪を立てる痛みも気にならない。むしろ情欲を煽るだけだ。
「やだ、い、く、綾ぁ」
 掴んでいる柔い肉を揉みながら強引に細長い身体を上下させる。雷堂が良い様に腰を振ってもそれは鳴海の快楽と繋がっているようだった。
「ぃく…、また、いっちゃ……!」
 耳に小さく口付けてやれば想い人は簡単に絶頂を迎え、律動を止めない雷堂へふるえる指のまま縋ってくる。絡み付く襞を割り進んで引き抜くを繰り返し、雷堂もぎゅうっと鳴海を抱きしめたまま一番奥で白濁を注ぐ。
「──ッ、」
「あ……、ぁ」
 息を荒げた鳴海がくたりと懐いてくるのを受け止めていればどぉん、と夜空に花火が咲いた。今までも継続して上がっていたのだろうがすっかり聞こえていなかったらしい。
 どぉん、どぉん、どぉん。
 続けて幾つも打ち上げられているならもう花火も終わりだ。
「終わったか……」
 いつの間にやら雷堂と同じ様に空を見上げていた鳴海が独り言の様に呟き、ふらりと社へ近付いたかと思えば提灯を置いていた階段へ力無く座り込んだ。
「どうした」
「疲れた」
 雷堂ちゃんたら激しいんだもん。
 にやにやと言われてしまえば何も言い返す事が出来ない。手巾で汚れを拭い、浴衣を着直して社を後にする。どうせ多少乱れていても夜だから殆どわからないだろう。そう主張する鳴海も纏めていた髪を元通りにする気は起きなかったらしく、幾度か手櫛を入れて見慣れた髪型にすると頼りない足取りで歩き出した。
「危ないぞ」
「転けそうならお前が支えてくれるだろ。早く帰って風呂入りたいなァ」
 多少くたびれた影を持ちつつも、鳴海は機嫌良さげにちいさく歌いながら雷堂の手を握った。露店が並ぶ通りの外れまで戻って来たから、後は銀楼閣に帰るだけだ。
「汚れはちゃんと落ちるかねェ」
「戻ったら浸けておくが、保証は出来んな。そんなに気に入りだったか?」
 鳴海は着道楽な面を持つから普段の男装めいた格好を含む洋装も、和装も手持ちが多い。汚してしまえばすぐ買い替えるばかりだと思っていたのに。
 単純な疑問を口にしただけなのに、鳴海は雷堂に視線を向けたままぱちぱちと瞬きして何も言わなかった。怒っているわけでもなく笑っているわけでもない、なんとも言えない表情だ。
「何だ」
「いや、大した事じゃないんだけど、お前が前に似合うって言ってくれてたから」
 お前が私の服に口出しする事あんまり無いし。そういう意味じゃガキになってた私が浴衣見立ててもらってたの、うらやましいかも。
 歌う様に言って鳴海はまた歩き出し、雷堂も手が離れない様について歩いた。
「……、我がそういう事に気が利かんのは認める。新しい浴衣ぐらいいくらでも見繕ってやるし買ってやる」
「選んでくれるのはうれしいけど金はいいよ、私が選んで欲しいだけだし」
「いや、我が贈りたいから払わせてくれ。……そうだな、あれに浴衣を用意する前に鳴海へ贈るべきだった。どうにもこういうことへ気が回らん」
 情けなさに浸る雷堂へ鳴海が小さく笑う。繋いでいるのと逆の手で黒髪を掻き乱される感触はどこまでもやさしい。
「私の我侭なだけだから気にしなくていいんだよ、これ以上男前になられても困るし。ああでも、甲斐性のある旦那が良いってのは世の常かね」
 あたしはしあわせもんだ。
 最後の言葉だけひそやかに空気へ溶け込ませ、雷堂の背中を一度大きく叩いて鳴海は辿り着いた銀楼閣の中へ入ってしまった。肩の上でひらひらと振られる手はまた冗談だ、という主張なんだろうけど。
 追いかけて探偵社の中に入り、夜の帳の中ではなく灯りの下で見る鳴海の顔は少しぐらい染まっているだろうか。それともちっとも普段と変わらないだろうか。
 どちらでも構わない。
 ただぎゅっと抱きしめる事だけは観念して頂こう。
 少し先の望んだ未来を叶えるため、雷堂は一段飛ばしに三階までの階段を駆け上がった。


 おしまい



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20130815up/初出20130812コピ本
既刊「ベリーを摘んだらダンスにしよう」おまけ本

本編に入れ忘れたくだりといちゃえろ足してのおまけでした。
鳴海さんのめんどくささと雷堂さんの対めんどくさいスキルがうなぎのぼり