「ご馳走さまでした」
「おそまつさまでした」
 手を合わせ一礼すると、真向かいに座る鳴海が紫煙を燻らせながらお決まりの文句を言った。雷堂が帰宅した時既に食卓へ並んでいた昼食は残されること無く健啖家の腹へおさまっている。
「美味かった」
「そりゃよかった。急なお仕事ご苦労様」
「思ったより早く終わったからな、それほど負担でもない」
 空の食器を重ねていれば鳴海の手がそれを攫う。洗うぞと告げた雷堂をいつもの笑みひとつでその場に留めるのは慣れたやりとりだ。ごんごんと洗濯機が働く音が何枚かの壁越しに聞こえる正午にほんの少しだけ早い時間、フローリングに伸びた業斗がぱしりと床を尻尾で叩いた。
「……今からでも出かける?」
 鳴海の問いは当然のもので、本来なら一日休みだった今日は出かける計画をしていた。一日だけだからあまり遠くには出かけられないけれど、電車で移動して近場の観光地を散策するかと他愛無い会話をしたのは一週間も前のことではない。有名な和菓子をそこで食べてぶらぶらして、どこか美味そうな店を見繕って夕食をとれたら、なんて話していたのは急な仕事であっさり無くなってしまった。依頼されなくなれば終わりの商売に仮初めながら手を出している以上、断るなんてできるはずもない。
「いや、今からだと忙しないだろう」
「だねえ」
 苦笑して鳴海が眼鏡を押し上げると、黒猫が猫の声だけでにゃあと鳴いた。
「……その、我も楽しみにしていたからな。言葉が足りずに申し訳ない。我が約束を反故にしたのだから、やはり鳴海さんは責めてもいい、すまん」
「そんなことで責めるわけないよ。ああ、でも悪いと思ってるなら雷堂の珈琲が飲みたいな」
「承知した」
 簡単過ぎる程の代案に感じるのは甘やかされているな、というどうにも申し訳ないむず痒さで、雷堂は足早にキッチンへ向かった。ケトルを火にかけている間にマグとドリッパー、鳴海が好きにブレンドした珈琲粉、ペーパーフィルターを用意する。鳴海は今頃リビングで業斗を撫ぜているのだろうか。
 水切りに上がっている食器を拭いて棚へ片付ける。仕事が入った申し訳ない、と告げた時に鳴海があんまりあっさり「そうか」と言ったので拍子抜けしたけれどあの分なら鳴海は相当楽しみにしてくれていたのかもと思い至って少しだけ笑う。今から出かけても目当てにしていた菓子は売り切れて手に入らないだろうに。いつもならじゃあゆっくり休めと言うだろう鳴海の、おそらく雷堂を気遣ってくれたことも間違いではない先程の言葉は鳴海自身の願望を含んでいたと思いたい。鳴海への返答そのまま、断ったのは今からだと忙しないからだ。もともとのんびりするのを好むのも鳴海なのだから、出かけるなら日を改めた方がいい。残り少ない休息の一日を二人で過ごせるなら文句等ないのだから。
 沸いた湯でフィルターを濡らし、粉を放り込む。二人分作ってしまうので濃さは鳴海に合わせた。雷堂の分には砂糖もミルクも入ってしまうのだから問題ない。それでも飲むなら鳴海が手ずからこしらえたものの方が余程美味いと雷堂は知っている。
 マグに湯を溜め一度捨てるという作業をふたつぶん繰り返し、ドリッパーを置いてゆっくり注ぐとキッチンは途端に珈琲の香りで満たされた。教えられた通り粉が盛り上がるまでじっと待ち、泡が消える前に注ぎ足してちょうどいい嵩まで繰り返す。仕上がった片方へ甘味を加えてぐるりと一混ぜすると、雷堂はマグを持ってリビングへ戻った。
「鳴海さん?」
 見れば想い人の姿は見当たらず、業斗もいない。ベランダへ出る窓が細く開いてカーテンを揺らしているから目付けはどこかへ出かけてしまったのだろうが、鳴海はどこへ消えたのか。そのまま廊下へ出ると鳴海の部屋のドアが開いていた。覗いてみれば鳴海が座り込んでポスターを眺めている。
「鳴海さん」
「わッ」
 焦った声で跳び上がる鳴海は珍しい。眺めていたものが昨晩鳴海に渡したものだと気づいて少しだけ恥ずかしくなった。わかりやすい仕事の結果だからと印刷物の類いは全て本来の上司である鳴海へ報告がてら提出しているが、今回はいつもと路線が違う。
「昨日渡したものか」
「うん、まだ見てなかったから……雷堂すごいなあお前。生で見たらお嬢さん方腰抜かしそうだ」
 薄いフレームに入ったそれを側の壁に立てかけ、少し離れて座り直した鳴海がほうと息を吐く。確かに今回のものは少し露出が多く、コンセプトは色気だとかそういうものだった気がする。羽織る程度に身体へ引っ掛けたシャツの陰影が晒した肌へ深く刻まれているのはどこか夜の湿度を連想させた。
「目で殺す、とか言うけどなあ。こういうのもこなすんだなあ、プロだよお前」
「……最初は撮る側の指示通りにできなくて戸惑ったのだが」
 何しろ誘うようにだとかセクシーにだとかそんな指示ばかりなのだから困る。そつなくこなす相方のようにはいかない、と悩みかけたところでぽつりとアドバイスが与えられた。もちろんライドウからだ。
「へえ。そしたらうまくいった?何言われたの」
「カメラマンもご満悦の出来、らしい……我にはその出来不出来がよくわからんが。助言は、その、」
 わくわくと瞳を輝かせている鳴海の横に正座し、少し離れたところにマグを置く。ありがとなの声に頷きひとつで返答し、雷堂はそのままを鳴海に伝えた。

「簡単だ。あのひとがレンズの向こうにいると思えば良い」
「…そんなものか?」
「そんなもんさ」
 く、と喉を鳴らしたライドウは雷堂の近くまで来ると何でもないことのように言った。声音の感触越しに彼の上司を見た気がするのは錯覚だろうか。先に撮り終えた人間の助言なら信用がおけるが、鳴海を想うだけでそんなにも変わるとは思いにくい。
「足りないならもう少し具体的に。押し倒したいとか抱きたいとか」
「な」
「先方がそういうのを希望してるんだから構わないだろ」
 ぱくぱくと口を開く雷堂へ向かって造りものめいた綺麗さで微笑むと、ライドウは何か用事があるのかスタッフのところへ移動してしまった。撮影再開まで後五分。あのひと、と言われて鳴海を思い出す。この仕事をしていれば綺麗な女性にも魅惑的な肉体にもいくらでも出会うしそれなりに反応するけれど、欲しいと思うのはあの男だけだ。前に肌へ触れたのは何時だっただろう。思い返せば慣れた感覚が身体を這い始め、雷堂は仕事中だと頭を振って絡み付くそれを振り払おうとした。振り払おうとして、ふと助言を思い返す。──なら、支配されてしまわない程度に、思いを自覚してからずっとの連れ合いと共に撮影へ挑めば良いのだ。レンズの向こうに鳴海を見れば良い。
 撮影再開まで残り一分。
 瞼の裏に鳴海を呼び、雷堂はひとつ大きく呼吸した。

「というわけで……鳴海さん?」
 言われた助言はそのまま、自らの心情はかいつまんで説明したところで鳴海を見れば、ポスターへ視線をやったままで耳の端を赤く染めて軽く俯いていた。近づいて覗き込めば立てた膝の間へ顔を埋められてしまう。眼鏡越しにはわかりにくかったが目元も染まっていたように思う。
「鳴海さん」
「お前……ほんっっと恥ずかしいやつだな」
 じゃああれは俺を見てるってことなのか。
 ぼそぼそと顔を隠して言う姿がかわいらしいものに見え、雷堂は背後へ回り込むと鳴海を包むように腕を回した。抱きついて腹の前で手を組めば鳴海の身体がびくりと揺れる。背に耳を付けると聞こえる鼓動は暴れている。伝わる体温は常より熱い。
「……確かにさ、やらしいように撮ったんだってわかるよ。俺も見てそう思ったし、まだどきどきしてる。でも、ほんとに俺を見てるってお前、あ、馬鹿」
 そんなことを言われてしまえば欲を煽られるばかりだ。胸に手を滑らせ撫で擦ると鳴海が湿った息を吐いた。筋肉の感触を指先で味わえばやがて布越しに突起がひっかかるようになる。
「ぅあ」
 探り当てた乳首をシャツごと揉み潰してきつく捻り、そこでの快楽を知っている身体が逃げるように背を丸め前へ倒そうとするのを腕の力で止めた。びくびくと震えるのを膝で挟んで逃さない意思を伝える。
「ちょ、雷、堂」
 器用にボタンを外していく指に鳴海のそれが重なり、抵抗の動きを見せる前にまだ片手で弄んでいた刺激を強めてやれば鳴海の指は縋るように添えられるだけだった。すこしだけ時間をかけて全てのボタンが外れたシャツは鳴海が身を捩る度にひら、と端を揺らす。
 直に触れる肌が僅かに汗ばんで吸い付くようだ。鼻先で髪を掻き分け項に唇を押し付けて嗅ぐ香りは夜の鳴海から漂うと認識しているもので、今は昼間なのにとどこかで思いながら雷堂は腰に熱が溜まるのを感じた。
「あまりかわいらしいことを言われると」
「んっ」
 喘ぐ鳴海が焦れて腰を揺らすまで胸ばかりを弄り、漸く下肢へ触れた時には鳴海が喉を逸らして啼いた。かわいらしいってなんだよ、ばか。耳や首筋だけでなく真っ赤になった顔で言う表情を見てみたいとも思うけれど、それよりは快楽を与えるのに専念してジッパーを手探りで下ろすと、立ち上がった性器が雷堂の指先を濡らした。先端を軽く爪先で掻けばくちりと粘ついた音がして鳴海が震える。
「ひ、ぁう、ちょっと待って雷堂、せめてベッドっ、ここやだ」
「嫌なのか?……ああ」
 先程から鳴海がずっと見ている先を漸く悟り、雷堂は無意識に口の端を持ち上げると喉の奥で笑った。だからあまりかわいらしいことを言うな、と忠告しているのに。
「あれはただの写真だ」
「そ、だけど!」
 固く育った肉を指で作った輪にくぐらせる。鳴海自身が零す先走りはたらたらと伝い落ち、蠢く指に触れて表面へ塗り広げられた。上下に往復させるだけで乱れる吐息は雷堂の熱を容易く煽った。
 どきどきした、と鳴海は言っていた。欲の火種を自ら含んでいた身体を追い上げるのは簡単だ。見られているという思い込みではなく、ポスターに映った雷堂が見ているのが本当に鳴海だ、と気づいた時には炎が生まれていたに違いない。熱は消そうとしても燻るものにしか成らず、炎は焼き尽くすしか出来ない。そういうものだ。

「だって、──見てる」

 涙混じりに落ちた言葉でぞわりと背に情欲が走り、雷堂は鳴海のシャツを大きく開くと襟足の布地へ乱暴に噛み付いた。途端に唾液が滲んで濡れた綿の味とざらつきが舌を這う。歯できつく布をとらえたまま頭を動かしてシャツを引き摺り下ろす。
「あああぁっ」
 肌に触れたままのそれは鳴海の背中へ固い歯と上唇の裏側、そして鼻先で同じ線を辿る結果になった。どんな刺激を感じたのか嬌声を上げ悶える鳴海へ再び両の手で刺激を与え、現われた素肌へ唇を寄せる。明るい室内でも身じろぎで生まれる背骨の影が酷く卑猥に見えてひとつひとつ丁寧に口付けた。
「雷、堂、やだ」
 ちゅ、と吸い上げる度生まれる些か可愛らしい音は手のひらの内から聞こえる淫らな水音と正反対だ。想い人の痴態に痛い程反応している股間を押し付けてやれば鳴海のものが固さを増した。
「見ているのも我だろう」
「いやだ、ぁ」
 常よりも敏感になった身体で喘ぐ項に歯を立てて乱暴に扱くと小さな悲鳴をあげて鳴海が射精した。びく、と何度か震えても力は入らないのか雷堂の腕の中で滑り落ちていく。片腕で抱きとめて名前を呼べば水分を増した目が雷堂を映し、まばたきひとつで涙が頬を転がっていった。漸く見ることが出来た表情に満足を覚えて口付ける。
「なんだよ、酷いな……」
 しばらく舌を絡め合った後、鳴海が身体を反転させて雷堂へ向かい合う形になった。首に回された腕が許されている証のようでうれしくなる。
「やだって言ったのに」
「あれを見て勝手に興奮してるからだ。我はいつもと変わらん」
「、勝手って…いやそうなんだけど。お前だってすごいことなってるくせに」
 片手で下肢を撫ぜられて思わず雷堂の腰が跳ねる。意趣返しに成功して子供のように笑う顔へもう一度口付けると、雷堂は手を伸ばして鳴海のズボンと下着を取り去るために力を込めた。
「ちょ!だから、ここはやだって……」
「半日も焦らされたらすごいことにもなる」
 ──望んでいたのは我だけか。
 耳元で囁けば鳴海が一瞬固まり、ち、と舌打ちして雷堂と視線を合わせてくる。頬を染めたままというのは睨みつけられても怖くないはずだが、今の鳴海には変な迫力さえ伴っていた。
「雷堂、眼鏡外せ」
「鳴海さん?」
「いいから」
 鋭い声に大人しく従う。目を伏せている鳴海から眼鏡を引き抜き、側の棚へ置くため身体を横に捻っているといきなり下肢を探られて息が詰まった。
「鳴、海さ」
 雷堂の足の間で四つ這いになった鳴海が器用な指先で目的のものを取り出すと躊躇いなく口に含む。外気に晒されたと感じる間もなく濡れた粘膜に包まれ、直接与えられる刺激に快楽の極みが容易く雷堂を引き寄せた。肉を這う舌と薄い唇の紅に目眩がしそうだ。
「ん、ぅあ、出る…っ」
 咥内へ遠慮なく吐き出すと鳴海が呻いて喉を鳴らす。最後まで出せと促すように吸い上げられ、ちか、と目の奥で火花が光った。鳴海の髪を掻き上げてやればだらしなく口を開いたままでうっとりと目を細める。埋めていた肉が取り除かれた咥内で覗く舌の所々に白濁が絡み付いていた。
「雷堂」
 少し前屈みになり、再び鳴海のズボンに手をやれば抵抗の様子はない。引き摺り落として尻肉を掴むと鳴海の身体が震え、そして雷堂の萎えきらない性器にゆるく口付けられる。
「……、見られているのに、いいのか」
「っふ、んむ……馬鹿、聞くなよ」
一度鳴海の咥内に指をいれて濡らすとそのまま内側へ潜り込ませた。互いの声に混じった密やかな笑いの空気はすぐに消え失せて自分ではない熱に酔う。奥を掻き混ぜる頃には耐えられなくなったのか、鳴海は固く育った肉へ頬を押し付けて喘いでいた。
 見られている意識が鳴海の欲を高めているのは間違いなく、常より乱れた痴態に煽られてしょうがない。焦らされていたのはきっとお互い様なのだ。
「も、お」
「鳴海さん」
 身体を起こししがみついてくる鳴海を抱き締めながら、雷堂はその染まった耳を食んで視線を前に向けた。聞くなよとは言いながらずっとこちらしか向かなくなった鳴海はかわいらしい。どうせなら裏返してからかってもいいのだけれど、自分とはいえ虚像へこの鳴海を見せるのも惜しいというのが正直なところだ。
「あああ」
 肉が噛むような抵抗を割って鳴海の内へ飲み込まれる。ひ、と啼き声を漏らす唇は強請ればすぐに雷堂のものと重なった。
「は、あ…。ふふ」
 笑う吐息が顔に触れ、見上げれば鳴海が蕩けた表情で見下ろしていた。眼鏡越しではない瞳に映る自分を見る。
「雷堂、あれよりやらしい顔してる」
 かわいい。

 音が持つ意味を頭が理解した時には身体が勝手に鳴海を求めていて、想い人に感情の全てを支配されながら雷堂は喉元に食らいつき、獣の欲を己に許した。








「そういえば、朝ゴミ出ししてるときライドウ君に会ったよ」
 雷堂が差し出したマグを受け取り、礼を言った鳴海がふと言葉を零した。作り直した珈琲から昇る湯気には豊かな香りが含まれている。
「何か言っていたか」
「特には。休みだってのに朝から元気だなと思ってさ。若いっていいねぇ」
 おそらくは二人ともが隣家の夜を朧げに想像できているからか、呟く鳴海の目はどこか遠くを見ている。
「……」
 返答はせずに自分のマグに口を付け、雷堂はもそもそと服を着込む鳴海を眺めていた。シャワーを使ったのは鳴海より後で、珈琲を入れ直して戻ってみれば下着と部屋着の上だけひっかけてベッドに転がった恋人が微睡んでいた。起こすのも忍びないけれど、と風邪を引くと肩を揺らしただけで割合はっきりと覚醒してくれたらしい。
「ん、うまい」
「どうも」
「何か俺もお腹空いたな…雷堂なんか食べる?おやつにはちょっと早いんだけど」
「我は食事でもかまわない」
「流石。んじゃどうしようか、前のシチューが冷凍してあるからポットパイもどきにでもするかな」
 ぐ、と背伸びした鳴海は身体を捻っていくつか関節を鳴らした後、勢いを付けてベッドから下りた。煙草を銜えて火を付け、ライターだけをポケットにしまい込む。純銀のジッポーは以前雷堂が贈ったもので、煙草はあちこちの部屋に置いてある鳴海がジッポーだけは持ち歩く光景はいつも雷堂を喜ばせた。紫煙をたなびかせながら廊下を進む背は何か異国の歌を口ずさんでいる。
「ならパンを買ってくる」
「え」
 くるりと振り返った鳴海が眼鏡越しにまばたきをひとつ。何故、と問う目はまっすぐに雷堂を見ている。
「鳴海さんあそこのライ麦バゲット好きだろう。五分もかからないところだ、すぐ戻る」
「……あんまり俺を甘やかさなくていいんだぞ」
「いや。我も若いからな」
 途端に速球で投げつけられた財布を片手で受ければ皮で出来たそれはパシ、と廊下に張った音を立てた。なんだよむかつく、と奥から聞こえる声に思わず喉が鳴る。背中に文句を受けながら廊下を逆の玄関へ進んだ。スニーカーを履いて帽子を目深に被り、扉を開けたところで音に気づいたのかキッチンから声がかかる。
「いってらっしゃい」
 一歩外に出て玄関を振り返った。
 何組かの靴、ぶら下がった家や車の鍵、ここは確かに自分の家だ。
 だってあのひとがいるのだから。
「行って参ります」
 言葉が届くように、押し込めるようにドアを閉めて通路を進んだ。見上げる空は休日にふさわしく青く高い。あのパン屋は何を買っても美味いけれど、甘い物の中でまだ鳴海が食べたことがないのはどれだっただろうか、と順番に思い浮かべる。食パンかバゲットをひとつと、それぞれが好きそうなパンをひとつずつ買うのがパン屋へ行った時の決まり事で、どちらが始めたか思い出すこともできないそれはもうずっと続いている。
 帰宅すれば待っているのはあたたかな食事の匂いと「おかえり」だ。
 小さく口の端を持ち上げて、僅かでも歩く時間を短くするため雷堂は大きな一歩で穏やかな街並を進んだ。
 
 

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20090529

「だめ、ポスターが見てる…!」路線にしようと頑張ったはずが
なんか妙にフェティッシュなあれになってしまいましたごめん雷堂とナルミさん…
こっそり初雷ナルというのは内緒です。ふだんにょた所長とナル雷だから!
楽しかった〜