小話

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point  蜜/雷ナル(♀)/くのきさんへ
2013年12月30日(Mon) point
「ッく」

 とんでもなく甘い悲鳴が零れそうになって鳴海はとっさに息を飲んだ。そんな反応を気にも留めない固い指先が身体を好き勝手に這い回り続ける。どうにか逃げようとしても、後ろから中途半端に剥がされ肘に溜まるスーツが邪魔でまともに腕が動かせない。雷堂の上に座っていただけなのに、立ち上がろうとした身体は引き戻されて学生服の片腿を跨ぐ格好で抱きしめられている。ご丁寧に空いているもう片方の足まで絡めてくるのだから逃げ場なんて無い。

「ちょ、雷堂ちゃ」
「……」

 どうしてこうなったんだっけ。
 混乱する頭で考えてみても、鳴海の記憶に心当たりはさっぱりなかった。いつも通りの年末、雷堂の作った夕飯を食べて、そうだ原田がクリスマス用にと仕入れたらしい洋酒で晩酌して、かわいい恋人と何でもない話をして。
 そりゃあそんないつもの流れでいちゃいちゃしてそのままというのは珍しくないけれど、そんな時はだいたい鳴海からからかう様に誘う事がほとんどで、今みたいに雷堂が了承すらとらず強引に抱こうとしてくる事なんて。

「なん、だ、よ……ァあ、んぅ」

 あったかい椅子だ、と胡座をかく雷堂の上に遠慮なく座り込んだのは確かに鳴海だ。でもこんなことになるだなんて思ってなかった。問いただそうと振り返った所を口付けられてくらくらする。舌を絡めとられてしまえば糾弾もできず、シャツの隙間から入り込んだ手のひらが肌を撫ぜながら胸まで辿り着くのに抵抗すらできなかった。

「ん、ふぁ」

 たくし上げられ露にされた腹や腋の皮膚に外気が当たってつめたい。それが曝け出している事実を突きつけてくるからいっそう居たたまれない。もともと酒精で高くなっていた体温は直接的な刺激で熱いぐらいだ。掻き回される咥内と同じぐらいぐちゃぐちゃになった思考の隅でもう涙目になっちまってるだろうなあと思った。

「あ、やぁ、それ」
「気持ち良さそうだ」

 ほどけた唇を追う前に乳房を掴まれ身体に変な波が走る。びくんと跳ねても鳴海を拘束する雷堂の腕と足の力が強まるだけだった。項に埋まった雷堂の熱い息を感じながら己の身体を見下ろせば、上質な布で仕立てられたシャツが男の手の形にふくらんでいる。

「ひ」

 揉みしだかれて不意に先端を捻られると堪えきれない声が漏れる。布越しで直接見る事は出来ないのに、与えられている刺激そのままにシャツが蠢いて陰影をつくりだす様はひどくいやらしかった。それだけでも堪え難いのに跨がっている雷堂の腿がぐいぐいと股間を押し上げてくる。

「あっ、だめ、なんだよ、どしたの、雷堂ちゃ、ふぁあッ!」
「たまには」
「へ、あ、それ、だめ」
「たまには強引なのもいいんだろう」

 鳴海が言った。
 小さく付け加えられた言葉を無駄に優秀な耳はしっかり拾ってしまい、喘ぐ隙間でなんとか考える。確かに酒の勢いでそんなことを言ったような気もするが、その程度の猥談やらからかいやらは日常茶飯事のはずだ。

「確かに好きみたいだな。いつもよりしおらしいのはどうした」
「ばっっか、やろ、そんなもん、綾ちゃんに、」

 お前が好きな様にぐちゃぐちゃにされるのが気持ち良くて仕方ないからに決まってる。

 言えば項の側で息を飲む音が聞こえ、雷堂の手はともかく足の動きは止まった。これ以上されていたらまだズボンも下着も身に付けているのにぐちゅぐちゅと音がしそうだったからほっとしていると、固い指先が腹をいやらしく撫ぜてからさらに下へと進んで行く。

「あ」

 簡単に前を開けられてしまったズボンと下着を掻き分け、入り込んだ指先はすぐにぐちゅりと卑猥な音を鳴海の耳へ押し込めて来た。そんなにも濡れている自分が恥ずかしい。そして気持ち良い。

「綾ぁ」

 潜り込んで内壁を抉る指に感じ入りながら恋人へ強請れば、口付けはあっさり与えられた。
 唾液を啜って飲み下しながら頭の隅ではうまくなったなあなんて考える。雷堂に鳴海が教える事だってそりゃあ確かに有るけれど、それが全部だなんてわけがない。どうやら強引な方が好みの性癖だと恋人は誤解したようだがいつその認識を正してやろうか。そりゃあもちろんそういうのが好きなのは認めるけど。
 好きな雷堂のやりたいようにされてるから気持ち良いんであって、それ以外じゃいやだし、そもそも強引なだけでこんな我ながらどうかと思う程反応しない。こんなに感じるのは。
 鳴海も少なからず雷堂の好きな様に躾けられているからだ。
 それを若者が自覚しているとは思えないけれどそういうことだ。たくさん身体を重ねて来た中で、鳴海だって雷堂につくりかえられている。うまくなったねぇと鳴海が言う度、それは鳴海さんのおかげだと返す雷堂のように。
 それが抱き合うということで、雷堂の女だということだろう。

「や、それだめ、い、ッ!」

 いいところばかりを抉られ続けて身体は簡単に果てを迎える。整わない息で喘いでいるとズボンが腿辺りまで引き下げられ、雷堂が荒い仕草で前を寛げているのを感じた。
 強引な方が。
その言葉が若者の矜持を刺激したのか、はたまた現在やら過去やらの嫉妬を呼び起こしたのか。きっと想いを交わした当初ぐらいの雷堂なら卑猥なからかいだと流せていた事だ。

「なぁ、はや、くゥ」
「ッ、煽るな…!」

 それが良い事なのか悪い事なのかと聞かれたらきっと苦笑しか出来ない。
 ただ今の充足を得られるなら鳴海は双手を上げて歓迎するしかないのだから。

「……、すき、」

 肉を埋め込まれながら吐いた本音はあっさり拾われてしまい、返って来た同じ言葉と快感に鳴海は咽び泣いた。


 

 

point  冬の午後/雷ナル♀(幼女)/鏡護さんへ
2013年12月30日(Mon) point
「らいろー」

 とてとてとて、と妙に軽い足音が近付いてくる。雷堂が思ったよりも早く声の主は足下まで辿り着き、ちいさな身体で学生服の足へぎゅっとしがみついた。

「ただいまあ。あったかいー」
「こら足で暖を取るな。ストーブに寄れ」

 おかえりなさい。
 言いながら軽い少女を持ち上げようとしても何が楽しいのか離れないのでそっと足を持ち上げ、しがみつかれているのをそのままに何歩か進む。そもそもストーブがあるのはすぐそこだ。

「随分冷えたな」
「でもね、風がきーんて、きれいだったよ」

 癖毛に指を入れて掻き回してやればはらんでいた空気は酷く冷たい。くすくす笑うナルミから外套を剥ぎ取り、室内用の上掛けを羽織らせて手を洗ってやる。ストーブの前で少女が黒猫を抱きかかえるのを確認してから雷堂は一度台所へ下がった。温かいものを飲めばきっとはやくあたたまるだろう。いつだったかナルミがホットミルクに蜂蜜を垂らして雷堂へ与えてくれた様に。

「飲め」
「わあ! ありがと!」

 来客用の机にマグを置けばナルミはすっかり慣れた様子で椅子をよじ登り、両手に抱えてから雷堂に笑顔を向けた。そうしてポケットからいくつか菓子を取り出して机に並べ出す。

「これは健三ちゃんからで、これが」

 業斗を連れての外出は相変わらず貢ぎ物を回収してくる散歩になっているらしい。それぞれの贈り主を聞き相槌を打ちながら、雷堂は手の中の珈琲を啜った。

「これおいしいから、らいろー、あーん」
「ん」

 素直に口を開けば入ってくる菓子は確かに美味いものだ。今度経費で購入するか、と考えながら咀嚼していると小さな瞳がじっと見つめていることに気付く。

「どうした」
「らいろー、今日、こーひーなのにまっくろ」
「……ああ」

 流石にナルミは目敏い。教えた事が無いこちらの嗜好に気付いていたのだな、と喉の奥だけで笑って褐色の液体をもう一口。今でも得意とは言えない独特の苦み、そして馥郁たる香り。
 ホットミルクを与えられた夜にも漂っていたそれ。

「たまには我もこうして飲む」
「ふうん? おいしい?」
「……、ああ」

 一呼吸の間を置いて頷けば、ミルクの香りを纏わせた少女が屈託なく笑った。


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