「ちょ、っと待った、きゅーけい」
 身体を押し進めようとする肩をぺちぺちと叩かれて、雷堂はばっと鳴海から離れた。離れたとは言っても首筋あたりに埋めていた顔を上げただけなのでそれほど距離もない。
「ごめん。おねーさん若者の体力についてけてないのよん」
 見下ろす顔の両横に肘を付き、髪をそのまま梳いてやると鳴海が笑う。わかりやすくしあわせそうな表情に今更ながら雷堂は頬を染め、もごもごと口の中で呟いた。
「いや、その、すまない。我も鳴海に気遣わず、その」
「あはは。いいよ、夢中なのかわいいもの」
「あまり素直に喜べんのだが」
「褒め言葉ですよ、不服かね」
 ぺたぺたと鳴海の手が幾度も顔に触れる。汗ばんでいる肌はひとつにはなれないけれど吸い付くようだ。雷堂は目を閉じ感覚を享受しながら、時折唇に触れるそれを啄んだ。お前も慣れたよねえ、と鳴海の笑い声は繋がったままの身体から振動で知れる。
 伸び上がった鳴海が傷痕にくちづけ、そうしてまたぽすんと枕に頭を埋めた。
「おっとこ前だよねえ、ほんと。いいな」
「な、にを突然」
 傷を抜きにすれば散々評価され慣れた形容であるとはいえ、想い人から言われるそれは格別だ。また頬を染める雷堂に鳴海は喉を鳴らし、ゆっくり雷堂と視線を合わせた。
「ん。あたしが目ェ悪いの知ってるだろ」
「うむ。外しても動きが変わらないのでそこまで悪いと最初は知らなかった」
「ま、視覚だけが全てじゃないからさ。……いや、なんて言うか。レンズ越しじゃなく」
 する、とやわらかな指先が雷堂の顔を捉えた。
「こうやって。ちゃんとお前を見ることが出来る距離にいるのがうれしいな、って、そういうことだよ」
 言って与えられるくちづけは今度こそ唇に。
 離れる前にその頭を手のひらですくいあげ、雷堂はそのまま深く口付けた。鳴海にも抵抗の様子はなく、強請るように腕が首筋へ絡み付く。
「その…そろそろいいだろうか」
「…聞いちゃうのがお前だよねぇ。ん、いーよ」
 夜の真ん中と朝の間。
 腕のなかに大切なひとがいることほどしあわせなこともない。
 無意識に笑んだ雷堂に鳴海が顔を赤らめたことを、幸福にとらわれた少年は気づけなかった。



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20090404〜0509拍手御礼

いちゃいちゃ書きたくて書いた。後悔はしていない。