「……大丈夫、ですか」
 いつまでもひくひくと痙攣する身体を持て余していると耳にぞっとするような声が押し込まれ、鳴海は衝動に逆らわずぶるりと身を振るわせた。まだ快感の余韻に浸りきっているから口を開くのも面倒だが、答えないとライドウがいつまでも心配するのを知っている。心配されるのはいいとして素直すぎる物言いがどうにも問題だ。
「すみません。久々に抱き合えたから俺もどうにも加減がきかなくて、無理をさせてしまったなら」
「ん、だいじょぶだから」
 ぽんぽんと背中を叩いてやれば少しはほっとしたのか、顔を上げたライドウが視線を合わせてちいさく笑った。していたことに似つかわしくない笑みは幼く、どこからどうみても十代のこどものものだ。
 もういちど首筋に顔を埋め、ぎゅっと抱きついてくる身体には抵抗できない。いろんな体液で濡れてしまっているから拭いたくても相手は許してくれなかった。
「もう少し…このままで」
 身じろぎでくちゃりと粘ついた音が響く。繋がっているから、腹の間で吐き出したものが捏ねられているからと理由はいくらでも思いついた。まあ何かと忙しかったからしょうがないのか、と鳴海もライドウの背に両の手をまわした。決して大柄ではないが綺麗に付いている筋肉の感触が伝わってくる。
 なるみさん。
 時折落ちてくる囁きに相槌をうっても何が返ってくる事もない。短い黒髪が頬をくすぐるのが懐く猫の様で、かわいいな、と鳴海はひっそり喉を鳴らした。背を撫ぜると、ふ、と嬉しそうな吐息が耳を掠めたのでゆるゆると続けているうちに唐突に気づく。
 指先にひっかかる細かな傷は申し訳ないかな鳴海が付けたものだが、これはライドウ自身に責がある、と無理矢理に照れを押し込める。ただ触れる滑らかな筋肉の感触や腕を回して届く距離、身体の重み、そうした些細な違和感の積み重ねで知るのはライドウの成長だ。
 そうだよな。目線も前より高くなってる。それに気づくのがくちづけの時だというのがいささか乱れていると思わなくもないが。
 とんでもなく綺麗な顔は頬の線に鋭さを増していくらか骨っぽくなった。出会った頃はしなやかな柳を思わせるような曲線がまだ身体のあちこちにあったし今も残るけれど、これからどんどんと直線で構成された人間になっていくのだろう。つまりは男に。
「……ライドウ」
 呼べば徒に耳朶を齧られ、喉から感じた呼気が漏れる。我ながら酷く甘ったるいもんだ、と内心苦笑しながらこら、と短い黒髪を引いた。漸く上がった顔を捉えて唇を合わせるとライドウは一瞬だけ固まり、それでも舌先を忍び込ませれば応じて来た。鳴海の好むやり方を役目や学業通りの優秀さで覚えた彼は、余す事なく手管を披露してくれる。
 は、と息をつくと口の端から零れた唾液をライドウの指が拭った。合わせた視線、鳴海を見下ろす表情は綺麗さも相まってとんでもなく艶っぽくもあり、そして雄臭かった。それは初めて抱き合った頃にはなかったものだ。おそらく。
「俺は誘われていると思っていいんですかね」
「さあ、どうだろう」
 くすくす、笑い声はやや強引な愛撫でやがて嬌声へと変わった。からかわれていると思ったか、ち、と舌打ちが聞こえる。こういったライドウは閨でしか見られないもので、常の丁寧さがかけた所作は鳴海には好ましく思えた。互いの身体が熱くなってきているのはわかるのだから、もっと自信を持ってくれていいのに。余韻に浸り過ぎるほど深く感じるのは何よりも相手がライドウだから、に他ならないのだし。もっともっと男になっていく彼の、今この瞬間がもらえているなら、過ぎた僥倖に違いないのだ。

 疲労の残る身体に快感を詰め込まれ、鳴海は情人へ縋って少し泣いた。




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20090404〜0509拍手御礼

いちゃいちゃさせたかったのに所長が素直になってくれないという。