「…ッ、は、ァ」
 達したばかりだというのに、耳が拾った吐息がどうしようもないほど艶かしくて反応しそうになる。雷堂はぎゅっと瞳を閉じてその衝動を堪えた。腹にびちゃりとかかる粘液を今はきたないだとか思えない。顔を隠す為に交差させた腕の向こうをそっと覗けば、当たり前だが鳴海の顔が見えた。
 眉を寄せ目を閉じ、吐精の余韻に喘ぐ顔が上気して染まっている、つるりと頬の線を汗が流れる、ただそれだけの情景がとんでもなく卑猥に見えた。あの顔を、引き出したのが、自分だと。目の前の男が感じたのは自分だと、そう思うだけで。
「雷堂」
 鳴海と視線が絡む前にもう一度瞳を閉じ、近寄ってくる顔を露骨に避けた。頑なに腕をどかそうとしない雷堂に逆らわず、鳴海の唇は手首のあたりに触れる。
「なーに雷堂、キスぐらいさせてよ」
「うるさい、黙れ…」
「つれないなあ。ちょっと悲しいかも」
 はは、と笑う声に言葉通りのものが滲んでいてこっそり鳴海を窺う。決してこちらの嫌がることはせずに雷堂の快楽ばかりを引き出して、最後の最後だけすこし奔放に振る舞った男はへにゃりと眉を下げていた。声も目も口も空気さえも笑っているのにある意味器用だと雷堂は思う。
「んーと。しんどかった?」
「、だから、黙れと言ってるだろう…」
「ん」
 相槌なのかよくわからない音が鳴海から漏れ、雷堂は三度瞳を閉じた。ゆっくりと腕を外されて額に貼り付いていた前髪を掻き上げられる。ほんの僅かな部分でも、新しく空気に触れて冷えるのは心地良いものだ。そうして露になった額には人肌が押し付けられ、ぱさぱさと髪の先がその周りに触れた。もちろん雷堂のものではない。
「鳴海」
「ん?」
 瞼を持ち上げれば近過ぎる距離に鳴海の顔があった。額を付き合わせているのだから当然で、ゆるく曲線を描く癖毛が雷堂をくすぐっている。
「何だよ」
 言って鳴海はにこりと笑い、すこしだけ雷堂を見つめるとゆっくり距離を取る。そうして額にひとつくちづけてから、ごめんな、と言った。そのまま手を伸ばしてサイドボードから布を取るとごそごそ始末を始める。
「……」
 腹に散ったふたりぶんの精液はもうどちらのものか判別できない。やわらかな布がそれを拭っていくのを見ながら雷堂は静かに息を吐いた。そうでもしないとどんな言葉を吐いてしまうかわからない。
 なんで謝るんだ。
 これは自分も望んでしたことだ。色めいたからかいはいくらでもしてくるくせに、これまで鳴海から誘われたことはない。いつもいつもどれだけの羞恥をこらえて「お誘い」差し上げているか。馬鹿みたいに心の機微に聡いのだからその能力をこちらにも向けてもらいたいものだ。どんなやりとりをしても最後には鳴海が「いい?」と聞いて自分が頷く、そんなお決まりができてはいてもしたいと思っているのは雷堂ばかりのようでイヤになる。思いの意味も感情も、わけがわからなくて混乱する自分に告げてくれたのは鳴海からじゃなかったのか。
 好きだ、と最初に言われた声の響きを。まだ覚えているのに。
「っ、」
 記憶が感覚まで呼び起こし、図ったようなタイミングで性器に触れられて喉から息のかたまりが零れる。先程まで散々弄られていたそこは簡単に快楽を拾ったけれど、触れられたのと反応したのとどちらが早かっただろう。布を持つ手は汚れを拭っただけなのに。
「ありゃ。俺のせい?ごめんごめん」
 さっすが若いねお前、などと笑った口がそのまま下肢まで向かい、ぬるりと生暖かい舌がそこを辿った。濡れた感触に戸惑う頃にはもう先端が含まれている。
 物足りないぐらいのゆるやかな刺激に浅く喘ぎながら、雷堂は天井を仰いだ。きっとこのまま鳴海の口に吐き出して、それで終わりなことを少ない経験で知っている。風呂を使って同じ布団で眠り、鳴海はおじさんつかれちゃっただなんて言いながら笑うんだろう。
 鳴海と抱き合うといつもなまぬるい海で泳いでいるような気がする。安心するしもちろん感じているのだから快楽で溶けそうにもなる。できはしないがもしタヱあたりに言えばそれでなんの不満があるの、と返されそうだ。多分鳴海は今まで関係した女性もそういう風に抱いてきたんだろうと思う。
 でも。この身は男だし、女でありたいとも思わない。例えば一人遊びの想像のような、ある意味加虐的な衝動は鳴海にないのだろうか。自分はその対象にはならないんだろうか。好きだ、と言ってくれたのに。
「な、るみ、」
 喘ぎながら手を伸ばせば節の目立つ細い指に絡めとられる。戯れに擦り合わせるその動きはどこまでもやさしい。すきだすきだすきだ、だからもっと。

 果てて喘ぐ雷堂へ、鳴海が触れるだけのくちづけを落とした。




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20090404〜0509拍手御礼

唐突なナル雷萌えの産物です。ナルミさんはずるさ当社比1.5倍。