酒が入るとガードが甘くなる。 と、までは言わないが、触り癖が出る人間というのはいるものだ。 今目の前でぐにぐにとこちらの手を揉んでいるイルカ先生もそういう男だった。 「あー気持ちイー」 「ちょっと、伸びないでくださいよ。皿が落ちます」 居酒屋の喧噪の中、ほろ酔い加減を表す程度に頬を染めた男が二人。刺身のツマだの焼き鳥の串だのがのった皿ばかりがテーブルを埋めている。 俺の手の両端指に、イルカ先生の小指がそれぞれ組み合わされている。 親指の腹で手のひらを押されると酷く気持ちイイ。手はイルカ先生に預けたまま、酒の匂いが染みこんでいる汚れたテーブルの木目に懐いてなんかみたりして。 「しっろい指」 綺麗なもんですね、と日に焼けた指を駆使しながら呟くのが聞こえた。俺はそのごつごつした関節が肌を擦ってくるのが微妙にイイ感じなのだが。二人で飲むのは何度目かになるが、手甲をはずして見せたのは今日が初めてだ。だんだんと暖かくなってくる気候で今日は特に蒸し暑く、頼んだ仕事帰り最初の生ジョッキ。その冷たさを手で感じたいと思うほどには俺はまだ人間なのである。 「あ、そこ、そこ、痛気持ちイイ…ぁあんッ」 「妙な声出さないでください!」 まったくもうとか何とか言いながらコップに残っている酒が飲み干されてしまった。あーイルカ先生、気付いてないんだろうけどそれ俺のコップ。多分さっき俺がイルカ先生の間違えて飲んじゃったから自分のだと思っているんだろう。なんだかフワフワする。こんなに俺は酔う奴だったっけか?いや、それはイルカ先生にも言えることだ。割とウワバミだったと思うんだけど。 「気持ちよかったでーす、思わず喘いじゃいましたー」 「馬鹿言って」 呆れ顔のイルカ先生にテクニシャーン、とからかうように褒めてあげればまんざらでもなさそうな表情で追加の酒を頼んでいる。俺もお湯割りの梅入りを頼む。 「ここんとこ手先の神経使う仕事が重なってましたからありがたかったでーすよ」 「気持ちいいですよね。指股ぐーっと開いたりとか」 運ばれてきたウーロン割り入れて貰ってた胡瓜をぱりぱりと囓っているイルカ先生。最後に食べた方が美味しいのになぁ。あぁ、そう言えば。 「指股と言えばね」 イルカ先生の手を取って、中指と人差し指、付け根の間に俺の指先を置いて。 「擦ったら結構気持ちいーデショ?」 「うわっ!」 擽るように幾度か擦ってやったら何だか大げさなほど反応した。 染まる頬と驚いて見開いた目、少し潤んだ瞳。 可愛い、かも。 くつくつと笑いながら割り箸で焼酎に沈んだ梅をほぐす。 そうして俺がこの中忍を可愛いだとか思えた自分に愕然とするのは、酒が抜けた翌朝のことだった。
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