陰干ししてあるそれを手に取っただけだったのだが。 小さい傷がやたらと沢山あって少し凹んでいるところがいくつかある。額宛の金属と同じもので出来ているプレートは頑丈でないと話にならない。 これはクナイ。これは千本。 目で追っているうちに何で出来た傷か勝手に判断してしまう俺も根っこからの忍びなのだ。そうでもないと困るのは自分自身なのだし。 これは刀を受けたもの。術を纏っていたのか、すこし熱で歪んだらしい跡。 カカシが任務のため、自らのため力を振るう時、この手甲は主の思惑通りに働くのだろう。俺などでは到底赴くことの出来ないような過酷な任務、それに七班達とのDランク任務でも、なんでも。全て。 上忍はたけカカシという生き物にこれはつきものなのだ。 ぶらさがっているのをとろうとしたらするりと避けられた。生き物というわけではないし風のせいだとか俺の指先が少し震えていたかもしれないせいだとか色々と理由は考えられるけれど、カカシでないから拒否されたのかも。 そんなことを考えて小さく笑った。喉が震える程度に。 今度はしっかりと掴んでひとつ、自らの手に嵌めてみる。 節張った俺の手。ぴったりというよりきつい手甲は握ったり開いたりを繰り返せばぼこりと関節の動きを浮き上がらせ、逆側の肉を締め付けた。そのくせ指と指の隙間に布は余り、カカシが付けている時よりも見える指が短い。 「ふふ」 きりきりと締め付けてくる黒の布地。 多少の伸縮性があるから外すのにそれ程苦労するわけではないだろうけれど。 手のひらに唇を押し付ければ、ざらり、さらりといつもの感触がする。 記憶が呼び起こす温度と匂い。 俺と抱き合う前、すこしもどかしそうにこれを外すカカシの顔が好きだ。 はやく触れ合いたいと、眉を寄せ、それでも余裕ぶりたいのかにやりといやらしく笑う、そんないっぱいいっぱいの男の顔。 覆うものを拭いとり、自ら晒して俺を抱きしめる。 外したそれともうひとつを両方とも籠に入れ、外の洗濯物も取り込むために庭へ出る。鱗雲が山から山へぐるりと移動する頃には、カカシも帰ってくるのだろう。 晩飯は何を喰いに行こうかと雲を見ながら考えた。
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