言う事なんかいくらでも聞いてくれるくせに、いつもこちらを包むように、それでもひっそりと付き従っているくせに、どうしてもその線を越えてくれない。

「ふ、あぁッ…」

 大事に大事に、真綿でくるむように。
 そのくせ物事の真ん中はしっかり。

 もう数え切れないほど、不自然だとさえ思わないほど、その手に快楽を呼び起こされる。


 手ほどきだとか、処理だとか、血を重んじる一族に生まれた故の種をばらまかないための勉強とか、最中はそんなこと関係ないはずだ。きもちいい、とだけ感じていれば楽なのはわかってる。なのに。

 おれの吐き出した白濁で汚れた白く上質な手袋をするりと外して、目の前の男はそっとおれの頬に触れ、そのまま乱れた髪を耳にかけてくれる。その指先が伝える熱に、すこしでも熱くなっている事にたまらなくなる。

 これがおれに触れるのはこの時だけだ。

 余韻にまだ息の乱れるおれとは違って、きっちりとスーツを着こなし、撫でつけた髪も何もかも常と同じだ。
 手袋だけがいつもとちがう。
 このときしかこの愛しい手を見る事もない。

 何一つ乱れない様がくやしくて、睨み付けても返ってくるのは笑顔だから。


 命令だ。そう言って抱かせればふれることができるのか。


 近づいてくる顔、決して唇には触れてくれないキスを受け止めるために瞼を閉じた。








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2005 秋ごろ


合同誌「マニア。リタァンズ」のお題が執事だったので、おまけ本申請お礼に書いたもの。
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