「な、お前毛色の変わったのと付き合ってんだって?」 鳥面の男がけたけたと笑い指先を向けてくる。 煩わしいそれへ剣呑な眼差しを面越しに向け、カカシは一言零した。 「どこで聞いた」 依頼の暗殺は終わり隊長格の班と合流するまでの短い時間、カカシよりは僅かに年上だろうその男はひょいひょいと木を渡りながらそんなことを聞いてくる。ある意味のどかといえばのどかな話だ。 「さぁ?出所なんか忘れちまったけど、お前狐憑きの家に寝泊まりしてるらしいじゃないか。あんなガキになにがあるってのか」 狐憑き。それは幼いイルカの二つ名だ。 忌まわしくとも。事実である、その。 「ま、寝泊まりってのは事実だけどね」 音もなく長刀を振ればまとわりついていた血が地に叩き付けられる。懐紙で残る血を一拭きし、鞘に納める。もう屠るべき相手はこの空間にない。 カカシは鳥面の男に視線をやることなく、ただ夜でも開く花を視界にとどめていた。 「なんだ、花街でならした秘蔵っ子は今じゃ男も知らないようなガキに手を出してるってのか」 「違うよ」 イルカの細い肢体を思い出しながらカカシは即座に否定した。厄災の後成長を止めたイルカの身体は肉がつかない。最近になって漸く背が伸びてきたらしいがまだまだ小さな骨ばかりの身体だ。そんなものに手を出すだなんてとんでもない。 あれ、は守りたいものだ。 「なんだオンナじゃないのか」 「馬鹿いってんじゃないよ」 言ってカカシは薄く笑う。 ざざ、と葉擦れの音が木々を揺らした。 「あれは俺の「かわいい」なの」 それが俺を生かしている。 こころだけでそう付け足して目をつむる。 こちらに感知できるようにしている気配は隊長のものだろう、これで里に無事帰りさえすれば今回の任務は終了だ。 カカシはそれ以上何も言わず、鳥面の男を置いたまま木々を駆けた。 木の葉に到着する頃には夜明け前になるだろう、それでもさしてうまくもない食事が帰る地には用意されているに違いないのだ。
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