ざああああああ、と遠くに聞こえるのは雨音ではない。 狭いアパート。ユニットバスからシャワーの匂い。 安い居酒屋、酔っぱらって楽しくしゃべって、部屋にあげてまた一杯。 どことなく性的な空気を感じながらだったのに、ふと気がつくと酒の相手は家主のベッドですやすや眠ってしまっている。 まぁ疲れてるのかもな、と放置して風呂に入った。 のんびりと長風呂を楽しんだ後、ちゃんと寝る前に、と起こしてシャワーを使わせる。 二日酔い予防には水分。いつ開けたか覚えてないミネラルウォーターを一気に飲み干したところでいきなり気づいた。 しまった。 もう空になってしまったペットボトルを銜えながらそこら中の引き出しだとか、ハンガーにかかりっぱなしの服やらジャケットやらのポケットを捜索して得た成果は3つ。しかもメーカーはばらばらだ。 「...ま、あるだけマシか」 しばらく恋人のいなかった身としてはゴムの確保なんか考えていなかったわけで。 店なりそれなりの宿なり、と一夜限りの場所には常備されているし、独身男性の部屋に大量にあってもそれはそれで怖い。 意味なく銜えたままペットボトルを上下させて、三枚のそれを手のひらで握り込む。 「つーか...やる気あんのかな...」 ついさっきまで酔っぱらい相手だしもうほんとうに寝るつもりだったのも確かだけれど。 相手も覚醒した今、慌ててそういうものを探してしまうぐらいには期待している。 ひょっとして一人で先走っていたらどうしよう。 ものすごく恥ずかしいかもしれない。勝手な思い込みの大前提で家主がそういうのを出すと思っていたけど相手が用意してたら?そんな流れじゃなかったからそれはないだろうけど普段から持ってるならどっちが出すんだ? あぁもうこれだから男同士はわからん、なぜだかどんどん大変な方に思考がいって頬が染まるのを自覚した。 みられていなくてよかったと思う。 「うーん」 してもいい、と思うぐらいには好きだ。 恋人でいたい、とは別に思わないけれど。まだ。 「ごめんなさいこれ元栓切っちゃっていいんですか?」 いきなり開いた扉に驚けば水も滴るいい男がこっちを見ている。 風呂場の橙がかった光が肌にうつっておいしそうだ。 「あーはい、切っちゃってください」 やるんだったら後でシャワー浴び直したいけど、それならもう一度捻ればいいだけなのだから。とりあえずゴムは手の届く範囲にしまっておいて、家にある中でもきれいな方のバスタオルを手渡す。 「どーぞ」 「あ、ありがとうございます」 食べて飲んで話して盛り上がって酔っぱらってやって寝る。 そんなコースはいつぶりだろう。 さて体を拭き終わったらこの男はどうするのか。 どんな風に触れるひとなのかな。 考えた瞬間、水気と生きているなまぬるさを含んだ皮膚が後ろからひたりと身体にはりついて、体温が上がった。 ほんの少しだけ。 閨の技法やら泣き顔やらの興味ばかりでとてもこれが恋だとは思えないし思いたくもないのだけれど (だいたいそれほど深くこのひとを知っている訳ではないしそんな底知れないことはおそろしくもある)、 ひとつだけたしかなのはこれがとても恋ににているということだ。
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