※14でツナ獄山 帰り道のコンビニアイスが一番美味しかったりする。 たぶんほとんどの人が知っているその感覚を「オレ」が知ったのはここ最近で、でもそれがとんでもなく昔からのように思えるのはそれだけなんかいろいろ充実してるってことなんだろーなーとか思う。 「っくしゅ」 アイス食べたいなー、だなんて思う心とは裏腹に、汗が引いた身体は簡単に冷たくなってしまったらしい。ぶるりと震えたかと思うといきなりくしゃみが出た。 「十代目!」 「あれ、ツナだいじょーぶか?」 春先の気候は気まぐれで、日差しが暑いかと思えば木陰の風には身を縮こまらせる。そんな中の体育はサッカーでトーナメント。獄寺のおかげか山本のおかげかはたまた自身の変化か、ダメツナと呼ばれなくなっても相変わらず苦手なものは苦手だ。 それでもこうして初戦敗退後、汗かいてるのが既に凄いことだよなあ、とどこかの家庭教師に聞かれたら「何ぬるいこと言ってんだ」と銃口を向けられるようなことを考えてしまう。 「っくしゅん!うー、冷えたみたいで」 「ジャージの上持ってきてねぇの?」 「今日暑いと思って置いてきちゃっ」 「ならオレのを使って下さい十代目、オレが傍に付いていながら風邪など引かせては右腕の名折れっ」 山本の言葉尻から被せられた熱い発言に苦笑して、とりあえずありがとう、と言っておく。ただ気になるのは獄寺も、ということで。 「獄寺も寒がりなのに脱いじゃって平気なのかよ?試合にも出ねえしさみぃんじゃねーの、ほら鳥肌」 「うっさい触んな馬鹿!」 ぎゃいぎゃいと(片方が)騒ぎ立てる光景はいつものことだが、渡された上着をどうしようか迷ってしまう。確かに獄寺は動いても居ないし見るからに寒そうで、素直に借りるのが悪い気もする。かといって好意を無碍にするのも、などと考えているうちに山本までががばりと勢い良く着ていた上着を脱いだ。 「はいツナはそれ着て」 「?うん」 「獄寺はこっち〜」 「ってなにすんだてめ…!ぶはっ」 「うし!」 満足げな山本の笑顔がまぶしい。 獄寺の上着を着せられ、冷えた肌に与えられたあたたかみに思わず口が綻べば、山本の上着を強引に被せられた獄寺が漸く首を通したところだった。 「ほら、ちょーどいーのな!」 サイズ的にも、と続く山本の言葉にはあまりにも悪意がなくて拍子抜けしてしまう。小柄なことを気にしているけれど、ここまであっさりしているとその「うまくいったぜ!」という褒めて欲しそうな顔に笑いしか出てこない。 横をみれば獄寺が自分と同じぐらい、上着の布を余らせてぶかぶかと着こなしている。 「あ、でも山本は?」 「俺は今から準決出るからさ。あ、暇なら応援してくれよ!獄寺も!」 「…十代目の前で負けるような醜態さらすんじゃねえぞ」 「おうっ」 ガッツポーズを見せて走り去る山本を二人で見送る。 遠いホイッスルの音は試合終了を告げるもので、次に始まるのが山本の行った準決勝だろう。 「…獄寺君」 「はい!」 「いやそんな元気に返事してくれなくてもいいというかどうでもいいことなんだけど、今日帰り暇?」 「暇です!し、何か予定があったとしても十代目がお呼びとあらばいつでも」 わああ、と歓声が聞こえる。開始早々得点を入れたのは山本の居る班だ。 「ん、ありがとう。いや俺がアイス食べたいなーって思っただけなんだけど、どうかなって」 「もちろんお供致します。アイスなら駅前ですか」 獄寺が駅前と聞くのは当然で、大手チェーンのアイス屋があるからだ。そこのフレーバーに気に入りのものがあると知ってくれているから、聞いてくれている。その事実はとてもありがたい、けれど。 「それもいいけど、コンビニでいいかなって。半分に折れるヤツ買って、分けられたらいいなーとか思ってるんだけど」 そんなことを言えば獄寺は急に震えてうずくまってしまった。何か気に入らなかったのかと思えばこちらのボスとしての裁量に感動したらしい。マフィアという一面において獄寺の思考は計り知れないが、まあそれ以外の面では同い年の友人だと思いたい。 「んで、ぶらぶらしたらもっかいアイス買って山本に差し入れに行こうよ。お礼言わないと」 これのね、と腕を持ち上げれば余った裾がずるりと動く。 獄寺は一度瞬きしてから作ったような意地悪なような、とにかくそう言った顔を見せた。 「野球馬鹿に十代目から何かを賜る資格があるとは思えませんが、まあ確かに俺自身の恩もありますし」 さてどんな差し入れというなの嫌がらせをしてやるか、と呟く獄寺が、結局どれも美味そうなものばかり、そしてこちらの好みのものばかり3つ選ぶのだろうと知っている。 そしていつも部活に向かう瞬間だけは寂しそうな山本が、お礼やアイスなんて関係なく、獄寺と二人で部活終わりを訪ねてやればとんでもなくいい笑顔をくれることも。 わあああ、再度の歓声は山本がシュートを決めたからだ。 けっ、と獄寺の声が聞こえて思わず笑ってしまった。 ああ、ふたりともなんてかわいらしい! すきだな、なんてありふれた感情はジャージ一枚と体温であっさりつかまってしまった。
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