例えばこんないやらしいいきもの見たことない、とまで思うわけだ。 こころで何を思っていても本当に正確に相手に伝わるはずが無い。実際目の前の生き物はこちらが何を思っているか勘繰ることも無くテレビに視線を向けたままみかんを剥いている。段ボール詰めで売られているよりもまだちいさい、それでも十分に甘いそれは任務報酬の一部だったりする。 いやらしくみえるのは好きだからだろうか。 それは全うな答えのような気もするが、それでは答えとして不十分のような気もする。自問自答、どうせ正確な答えを作り出すのは自身でしかない話だ。 「……甘いですか、それ」 「ちょっと皮固いけど甘いですよ」 知っているけれど聞いてみたら食べますか、と一房突きつけられる。すうっとするさわやかな香り、オレンジの果肉、指先に張り付く白い筋のかけら、その向こう側に笑顔でもないなんてことないふつうの顔。性的なものなんてなにもない。 当たり前だ。 柑橘系の香りは食欲を抑えるとかさっきワイドショーで言ってなかったか? そんなことを考えながら口を開いて房を受け取り、偶然程度のいたずらを、指先にほんのすこしだけしかける。 さて流されるのか拾われるのか、俺はどこへいってしまうのか。 それともどこへいきたいのか。 反応を見る前に噛み潰した房は口の中でたちまち甘い汁をあふれさせ、そうして俺の腑に落ちていった。
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