飲みに行くのはよくあることだ。 そして酒の席では愚痴と恋愛ごと、下の話がいちばんの肴になる、なってしまうのは重ねた年のぶんだけしょうがないことなのかもしれない。 「理想の告白ぅ?」 そんな言葉が出てきた頃にはもうお互いに結構アルコールにやられてしまっていて、へらりと勝手に口元が緩むのを自覚する。 カカシのぶんまで酒の追加を店員に告げていたイルカはすこしだけ水の膜が張った目をカカシに向けてからつっぷしてしまった。 「えっらい乙女な単語だねぇ」 「そうですよねー。ま、アカデミーで流行ってるぐらいですから」 乙女は「好きな男が自分に告白してくる」を大前提にしてるところが乙女たる所以だ。 ごりごりとグラスに残る氷を奥歯で噛み砕きながら、カカシは上を向いているイルカのしっぽを眺めた。いつも最初はテーブルが埋まるほど注文するけれど、この心地いいぐだぐだな空気が流れる頃にはグラス以外に一皿あればいいほうだ。天井の橙色した灯がテーブルに映る。 熱くなった頬にテーブルは気持ちいいだろうなぁ。 あの日に焼けてちょっとかさついてる、イルカの肌。 「せんせーの理想は?」 酔っ払いの戯れ言だ。 そうだ俺は酔っ払いなのだ自覚しているんだから大目に見ろ。 酒に浸る脳はバカなことばかりをふつふつと沸き上がらせては散らし、カカシの中には様々なものが印象さえ残さずに通り抜けていく。 「りそう」 「オッケーしちゃうような」 突っ伏したままのイルカがうくく、と喉で笑った。 その振動がテーブルに伝って串入れの串がかたかた揺れる。 「そうですね、星のきれいな夜に」 「ぶ、くく、うん、星のきれいな夜に?」 「数は多くなくていいから、薔薇の花束持って」 「うんうん」 「忍服でかまわないから、そのきれーな顔、晒しといて」 「…せん、」 「くっさい言葉どれだけあってもいいけど、ただ好きって」 「せんせ」 「あんたなら。それぐらいやるんでしょうね…」 ほつれて落ちた前髪の隙間から真っ黒な目。 さっきまでさまよっていた視線は曇らずにまっすぐカカシに届く。 「…意地の悪い」 「あんたこそ」 届いた新しいグラスの底をうっすら染まるイルカの耳に当てる嫌がらせをしながら、カカシは明晩の天気と山中の花屋は何時に閉まるのかを必死に思い出そうとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
|