「理想の告白?」 「はい。りそーの」 少なくとも三十路前の男がアスパラベーコン巻きを咀嚼しながら安居酒屋で口にする単語ではない、と思う。ナルトの誕生日すら過ぎた今になって、漸く帰ってくることが出来たカカシ 先生は本日俺に祝われ中だ。だから安居酒屋のカウンターでこうして同じく安い酒をがんがん飲んでいる。 耳がちょっと赤くなってるし、酔っぱらってんのかな。 俺だって少しはアルコールに頭が浸されていて、思考が鈍い自覚はあるのだ。 なんだか思春期のお嬢さんがするような質問にははてさてどう答えたら良いものか。 「なんでもいいです」 「答えになってませんよー」 「そうですか?ほんとに特に…なにも」 だって、理想の告白、だなんて。 好きな人以外から告白されても迷惑なだけだし、好きな人からだったらされるだけでしあわせなんだから理想も何もない。 わかりきっている答えは説明しないといけないものなんだろうか。 そこは汲んで頂ける程には、仲が良いと思っていたのだけれど。 「ま、イルカ先生ならそう言うと思ったけど」 「…どうも」 褒め言葉じゃない言葉に返った礼が不思議だったのか、カカシ先生は咀嚼していたアスパラベーコン巻きを飲み込むまでの時間、きょとんとこちらを見ていた。あ、やっぱり目もちょっと赤い。酔ってるな、うん、俺も酔ってる。 「カカシ先生にはあるんですか?」 「へ」 「理想の告白、とやらが」 んー、とカカシ先生は天井を見、グラスを一気に呷り、それから何でか割り箸をそろえて箸置きに置いた。ちなみに箸置きはさっき俺が教えた箸の袋を折ったヤツだ。 「ある、かな」 「へーどんなですか?俺みたいな無粋なのと違ってカカシ先生ならなんかこーロマンチック、なのがあるんじゃないんですか」 聞いたのは少しの好奇心とアルコールが成した業だ。 普段ならそんなこと絶対聞けない。 しかもカカシ先生の語尾から畳みかけるように聞いてしまったのは不自然に思われなかっただろうか。普段から酒が入ると早口になるからバレていない、と思いたい。 「んーと」 「はい」 「高いとことか綺麗なとこじゃなくてもイイから飲み屋で」 「へ、ぇ」 「個室よりカウンターがイイかな。飯食って酒飲んでしゃべって」 「……カカシせんせ」 「俺が聞いた時にでも」 「あっさり俺が好きって言ってくれればそれでいいんだ」 言うなりカカシ先生はカウンターに突っ伏してしまった。俺の方に向いている顔はそれでもしっかり目を瞑っている。 俺はもうなんというか、どうしよう顔が赤くなってたら。手はカウンター上の空き皿やグラスをまとめているようだけど、それは手が勝手にやっていることであって、ああ、本当になん というかどうしようもない。 「性質の悪いお話で」 「お互い様でしょ」 ぱちり、と開いたカカシ先生の目。 写輪眼とかそんなの関係なく水の膜が張ってるのだから。 「ねぇイルカせんせい」 わかっている続きの言葉に対して心を決めるのには僅かばかり時間が必要だ。短い呼吸一つ、そうして聞こえてくるその声に。 「せんせいはだれがすきなの」 どれだけ目の前の人が忍びとして男として俺より上等だとしても、答えてこそ男の甲斐性だと思うのだ。
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