寒いし事務処理のピークにはちょっとだけ早いそんな時期。 「いらっしゃ「寒ッ!!」」 出迎えたカカシの言葉にかぶせてイルカが身を滑らせる。雪が降るとまではいかなくとも冷える夜だからその発言は当然なのだけれど、家主を玄関に置いたまま部屋に駆け込むのはさみ しいのでちょっと遠慮願いたい。 「もっと厚着してきたらいいのに〜」 「や、そこまで距離ないじゃないですか。そう思ってはいつも後悔してるんですけど」 ずび、と鼻をすするイルカの頬や耳は寒さで赤い。 部屋の真ん中に放り出されたビニル袋はさっきまでイルカの手にあったものだ。断りなしにカカシが覗き込んでも気にした様子もなく手を擦っている。 「つめた。って何これ、あんたが買ったんですか?」 かわいそうになって手のひらの片方だけに自分のそれで熱を分けつつ聞いてみれば、カカシに返されたのはそうですよ、と当然と言わんばかりの声と表情だった。 「…人混み、凄かったんじゃあ」 「まぁそうなんですけど、それこの時期しか売ってねえもんですから。俺好きなのに」 視線の先にはブラウニー。綺麗な包装紙には異国の言葉がずらずらと並んでいる。 この時期というか当日のチョコ売り場だなんて男が足を踏み入れるには相当勇気がいるだろう場所に、平然と姿を見せるイルカがあんまりにも容易く想像できてしまい、カカシは頭を抱 えた。これがカカシに贈るため、とかだったらまたイルカの反応も違うんだろうが、生憎二人とも酒飲みなために最近定着し出したイベントへの意気込みは無いに等しい。 「なるほど、それで今日は俺の家で飲みましょう〜だったわけね」 「カカシさんちのが洋酒いっぱいあるんですもん。紅センセイに感謝しないと!前の酒、ちょっとしかもらわずに寝ちゃったし」 大体イルカがこの菓子を気に入っているのも酒のツマミとして、だ。そしてイルカの家に並ぶ酒は安くてまあまあうまい日本酒ばかり。 どうせ生徒や同僚に少しばかりチョコのお恵みを頂いて、それで菓子をつまみに洋酒を飲む娯楽を思い出したに違いない。紅が(正確には紅の家で一緒に飲んでいたアスマが)教えてく れた新しい酒の楽しみ方は年に一度あるかないか、程度とはいえイルカのお気に入りになっている。 「俺の18年ちゃんをチョコで飲むのはちょっと癪ですが…いいでしょ、でも次せんせの家で飲むときは青い瓶のコ開けて下さいよ」 「う…、いいですよ。ツマミ持参ですよね」 「刺身でも買っていきますよ」 漸く暖まってきたのかイルカの手がするりと離れる。 追いかけて触れればそのまま肌がからまったので、酒も飲めるしいい夜だ、とカカシは窓向こうの寒さに笑いかけた。 朝はまだ遠い。
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