きれいなものがすきだ。 「お前って面食いだよな」 たまたま訪れたアカデミーでカカシの耳に入ってきたのはそんな言葉だった。よくある世間話というだけならば聞き流すのだが、思わず耳に留まったのはその断定に近い言葉を投げかけられたのが恋人だからだ。 「うーん、そうかな」 「そうだって」 アカデミー自体は休日の今日、普段ならざわめく幼い気配で満ちている空間はがらんとしている。任務に必要な道具を受け取り行く途中なのだがさてこの資料室へ顔を出すべきか否か。受付ですれ違っているからカカシがイルカに会うのは三日ぶりで、そのことを考えれば一目でも元気な姿を確認しておきたいところだ。だいたい立ち聞きは良くない。 里に常駐している身なのだからいい加減に気配を消さないことにも慣れないといけないのだが、まだまだ自分も修行が足りない、とカカシは襟足を掻いた。 「イルカが選ぶのってどうも綺麗な人じゃねぇの?悪いと言わねーけどさ、不思議なんだよなー。実際カノジョだったりするのが」 「…それは何気なく失礼なこと言ってるぞお前」 悪ぃ悪ぃ、と同僚は笑っているらしい。確かに失礼な話だ、とカカシは少しだけ苛立ちながら資料室の扉を避けて壁にもたれた。 惚れた欲目もあると十分に自覚しているが、イルカは立派な男だと思っている。その容姿が優れた女たちがどんな人物だったのか知らないから比較できないが、イルカが釣り合わないだなんて思わない。確かに派手な美形ではないけれど、とカカシは脳裏にイルカの姿を浮かべた。 派手な美形ではないが顔は十分に整っている方だろうし、教員だけあって綺麗な筋肉が付いている。多少骨が太いけれど丈夫な証拠の様でカカシとしては少しうらやましくもある。そしてそんな男が閨でで出す欲はとんでもなく卑猥だ。 「別に、好きになったらそう言ってるだけだし、振られちまうことだって普通にあるさ。そんなことで気後れしてたらもったいねぇだろ?」 「全く男前な…あ、てことは美形に惚れる傾向があるってのは多少自覚してるんだな」 「うるさい」 からかいとすこしの羨望を含んだ言葉にイルカが照れたのがわかって、カカシは思わず口布の中でちいさく笑った。そのまま壁から背を離し、当初の目的を果たすために廊下を再度進み始めた。窓から入る光はあたたかく廊下を照らし、向こうから来た事務員が通り過ぎれば僅かにだけ舞い上がった埃がきらきらと輝いている。 「平和だねぇ」 ぐっと背中を伸ばすとどこかがばきばき鳴った。冬でも天気がよければ日が射す部分はじんわりとあたたかい。 この分だと夜は冷えるだろうから夕食は鍋にしようか、と考えながらカカシは廊下を進んだので、その後資料室で交わされた会話を聴くことはもちろんなかったし興味もなかった。 「まぁでも、カカシさんは綺麗だから俺ってやっぱり面食いになっちまうのかな」 「…それはのろけか?」 きれいなものがすきだ 恋人としての好みだけでなく、イルカは綺麗なものが好きだと思う。カカシが気づかないようなものに感動していることはしょっちゅうで、もとが感激屋なところもあるものだからよく泣いている。 つきあい始めに夜空を見ながら散歩していた時(居酒屋の帰り道だというのが何とも色気のない話だが俺たち二人だとこんなものだ、と笑い合えたことが嬉しかったのでカカシに文句等あるはずがない)、イルカは木の葉の里で見る機会が少ないわけではない天の川に目を輝かせていた。夕日に染まるアカデミーの校庭。たくさんの子供たちの笑顔。誰かのために着飾った女。ナルトがわけてくれた仙人掌に一夜だけ咲く花。綺麗に磨かれた硝子石。 綺麗なものはたくさんあってそれをイルカは全部大事にしているのだから大変なことだと思う。それだけの懐の広さが信じられないほどだ。 自分の容姿が人より優れているらしいことは昔から否応がなく自覚させられているけれど、だからイルカを手に入れることが出来たのなら、ありがたいことだと思う。 カカシがそんなことをつらつらと考えながらつくった鶏団子のみぞれ鍋はイルカになかなか好評で、男二人で最後にはうどんを四玉放り込んでも綺麗に完食してくれた。最近イルカは柚子胡椒に嵌っているのでいい選択だったらしい。 食後のまったりした時間、七班との任務先で報酬としてもらった芋のきんつばに齧り付きながらビデオカメラを回しているとイルカが興味深げに近寄ってきた。両手には揃いの湯呑みが湯気を立てている。 ありがとう、と言いながらレンズ越しにイルカと湯呑みを受け取る自分の手を見る。平面の視覚はなかなか面白いもので、カカシはきょとんとしているイルカにカメラを向け続けた。 「どうしたんですか、それ」 「今日の任務で使ったんですけどもういらないらしくて。もらってきちゃいました」 「へぇ、気前がいいこともあるんですねぇ」 実際には潔癖性に近い依頼主から買い取る形になったのだが、カカシとしては気にしていない。動く映像として残るイルカを見てみたいと思ったからだ。 貸して下さい、と目をきらきらさせるイルカがどうにもかわいらしくて、カカシは簡単に操作を教えてイルカの好きにさせた。自分よりも「きれいなもの」を見つけることがうまいイルカならばいい映像が撮れるのかもしれない。 「こういう風に残るのはきっと大事なんでしょうけど、余計にさびしくなりそうですね。あぁ、でもカカシさんが見るのもこんななのかなぁ」 「写輪眼はまたちょっと違いますよ」 思わず苦笑しながらきんつばをイルカの口に運ぶ。向けられたレンズに自分の姿が反射するのを見ながら銜えさせて最後に指で押し込めば、音を立てて指を吸われた。 「なーに、いやらしい」 意図するところはわからなくないが何でイルカのスイッチが入ってしまったかはわからない。ただ誘われると、求められるとうれしくなってしまうのは事実で、カカシはイルカの唾液で濡れた指先で自らの唇をなぞった。もちろんイルカをさらに煽るために、レンズ越しにあるはずの黒い瞳を見据えながら。ごくりとイルカの喉が鳴ったのを確認する。 「うわ…カカシさん、AVみてぇ」 その言葉にイルカを煽るためとはいえ意識的に取った「いやらしい行動」を必要以上なぐらい客観的に突きつけられて、カカシは思わず羞恥に身を焼いた。煽っている方が照れるだなんて本末転倒で滑稽だが、その羞恥が引き返せないところまで身体の奥を痺れさせたのも事実なわけで。 する、と指先をイルカの股間に滑らせるとびくりと震える。今まで気にもしていなかったのに部屋に満ちているのは僅かにだけ乱れた呼気と何の変哲もない壁掛け時計が几帳面に時を刻む音、そしてビデオカメラの耳鳴りのような稼働音。 「…このままそんなことすると、撮っちゃいますよ」 「俺も後でいっぱい撮らしてくれるんならいいよ」 「あなたのきれいでやらしい姿なら残しておきたいんですけど」 部屋着のフリースはちょっと力を込めるだけで簡単にずらすことが出来る。下着越しに唇をそこに押し付けながら答えると、頭上に落ちてきたのはため息とも付かない熱い空気のかたまりだった。 「カカシさんのこんな姿、俺にしか見せちゃ駄目ですよ」 写輪眼のカカシが這いつくばって男の足の間に陣取って、くわえてるだなんて。 「あたりまえでしょ」 与えられる独占欲はカカシにとって気持ちいい拘束だ。イルカがきれいなものを好きなのを知っている、それなら容姿であろうと最大限に利用させてもらおう。どこまでもいやらしくきれいなものになってやる。 一度だけカメラを剥がして唇にキスを送り、カカシは寝室へ移動することを提案した。 ぬるぬると唾液を擦り付けて舐る。好きなところなんてとっくの昔に覚えてしまっていて、そこを掠めるたびに反応するからだが愛しかった。いつもは目を閉じていたり薄めでうつむいたりしているイルカだが、今はきっとレンズの向こうで眉根に皺を寄せながらこちらを見つめているに違いない。そう思うだけで腰がずんと重くなる。ひょっとしたら口内のイルカと同じぐらい自分のものは育ってしまっているのかもしれない。 ちらちらと上目遣いにレンズを見ながらカカシは丁寧に愛撫を施した。相変わらず遠くで地虫が鳴くような稼働音が耳に付き、それが尚のこと撮られている自身を意識させる。 粘膜で感じるあたたかさや塩気よりも、イルカがこんな倒錯的なことをしていることやそれをカカシに求めてきたこと、この先任務で会えなくなった時に今の映像を見ながらイルカが自慰に耽る様まで想像してしまったり、カカシを煽る材料はイルカ以上に多い。 「あ、カカシさ、もっと…」 請われるままに刺激を与えると舌の上で脈打つものが跳ねた。くしゃ、とカメラを持つのとは逆の手が絡まりがちな銀髪を掻き混ぜて時折強く捕んでくる。生々しい水音が部屋に響くように啜り上げながら、カカシは唾液と先走りが混じり伝い落ちた部分に指を潜り込ませた。 「んぅ、う」 「らーめ、ひゃんと撮あなきゃ」 「カカシさんやらしすぎるんですよ…っ」 蕩けた顔をしている自覚はある。 「ちゃんと撮って、俺を見てよ」 内側をぐるりと強く掻き混ぜながら先端を吸うとイルカが弾けた。びゅる、と吹き出た精液は殆どカカシの顔に張り付き、支えていた手で扱くと残りをその手や根元に零した。 「あ…」 しばらく射精の余韻に浸っていたイルカはまだ動いているカメラをそのまま枕の横に置くと慌ててカカシの顔を舌で拭った。片目に入りかけている白濁を手で擦り取ろうとしたのを察したらしい。 「あんまりいやらしくなんないでください、俺なんか興奮して死んじまいそうで」 「でもAVって言えば顔射な気がして」 「わかりますけど、でもなんかレンズ越しだと余計に」 は、と息をついたイルカの身体がぶるりと震えた。確かに興奮しているらしく吐き出したばかりの性器は芯を持っている。 「ナカ、弄られたしなんかもう熱くて」 「うん」 「カカシさんやらしいし、なんかもう俺、あぁ、いれていいですか」 返事をする前にころんと転がされ、カカシは仰向けになってイルカを見上げた。そのまま身体を落としてくるイルカの手にはまたカメラが握られている。 「どしたの、イルカせんせもやらしいんだけど」 「あ、だって、」 ずぶずぶとイルカの中に入り込んでいくそこを見ながら、カカシは跨がるイルカの太股を撫ぜた。筋肉に覆われたそこにも傷が多い。忍びの身体なのだから当然だ。 足を撫ぜ、腰骨をくすぐり、たまに腰を捕らえて乱暴に突き上げる。イルカの腰はずっと卑猥に揺れていて、いいところに当てようとするのをずらしてやれば悲鳴のような吐息を吐き、そこを強く抉ってやれば嗚咽に近い声を漏らした。 「だって、いつもは俺目ぇ瞑ってて、カカシさんがこんなやらしい顔だなんて、ああッ!」 感じていても突き上げられていても、いっそ健気なほどカメラを回し続けるイルカは絶頂の衝撃にのけぞった。何度か突き上げてそのままカカシも奥に吐き出し、上半身を起こしてイルカを抱きしめる。荒い息が少しだけ整うのを待ちそのままイルカを押し倒した。ぐちゅ、とつながったままの部分が滑った音を立てる。 「そんなに俺やらしい?」 「はい」 「俺にはイルカせんせのがやらしいけどね」 ぶんぶんよ首を横に振るイルカに苦笑を返せば、汗の浮かぶ腕がカカシを捕らえて引き寄せた。そのまま受けるキスはこれ以上もないぐらい官能的だ。何度も舌を絡ませた後、唇を噛んだまま目を開ければ至近距離の黒い瞳が涙の膜をはったままカカシを見据えている。 「あなたはきれいで、きれいなのに俺に突っ込んで腰振ってると思うだけでぞくぞくするのに。俺で感じてる顔とかもう見せられたらもう、」 皆まで言わせずにカカシは律動を始めた。乱暴なぐらいにイルカの奥を刺激するのはイルカを啼かせてやりたいからと、そしてそんなことしかできないぐらいにカカシ自身も感じてしまったからだ。 「せんせ、あんまり殺し文句ばっか、吐かないでよ…っ」 「ひ、あぁ」 片足を担ぎ上げ奥を掻き回すとつながったところがよく見える。ただイルカが欲しいと染まったこころでぺろりと唇を舐め、カカシは転がっていたカメラを空いた手に構えた。 「カカシさ?…あ、あ!」 「んっ」 どろどろに溶けた内壁はそれだけで気持ちいいのに、急に締め付けられて思わず声が出てしまう。 「や、だ、見ないで、撮らないでくださ」 「だーめ。俺も撮るって言ったでしょ?」 奥まで入れて引き抜くたびに中へ注いだ精液が溢れ出す。乱暴に打ち付ける腰にイルカはただ啼いていた。 「すっごい、ぐちゃぐちゃ、になってる、ね、見てせんせ、これ全部音とかも拾ってるんでしょうね」 「あああ、あ」 「あー、そうだ。せんせにもせんせのいい顔見せてあげる」 言ってカカシはカメラのディスプレイを引き出してひっくり返し、イルカ側に液晶を向けた。途端に内壁がまたカカシに絡み付いてカカシに感じていると教えてくれる。 「ほら、見なきゃ、駄目」 「馬鹿ですかあなたっ!ん、く」 「イルカせんせこんなにいい顔して俺に抱かれてるの」 ね。 熱くてたまらない。腰は勝手に動くしイルカはいやらしいし気持ちよくてたまらない。そんないろいろを込めたままほとんど無意識にカカシはイルカに笑いかけた。 一瞬だけきょとんとしたイルカもすぐにまた鳴き出したが、汗に濡れる震えた手がカカシに向かって差し出される。 「せんせ」 「あ、いい、カカシさん」 「俺もすごいいい、もう」 こうして撮りながらというのも興奮するけれど、やはり抱きしめている方がいい。イルカに引き寄せられてカカシも抱きしめ返して、イルカを腕の中に閉じ込めたまま最後を目指して腰を使った。 背中を掻きむしる指先ですら快感の刺激にしかならない。すき、と何度も荒い息ごとイルカの耳に吹き込んで、同時に甘い言葉と嬌声を吹き込まれて、強く腰を押し付けながら奥へと注ぎ込んだ。 とてもじゃないけれど恥ずかしくて素面じゃ見れない。 そんなイルカの言葉で今回のビデオは本体ごとベッドの下へ隠されてしまった。シャワーを使い水分も取った後は文字通り肌を重ね合わせるだけの時間になる。動かないから寝てしまったのかと思えば、イルカは窓硝子の向こうで輝く半月を見つめていた。 「イルカせんせはほんとうにきれいなものがすきですね」 独り言に近かったそれをイルカの優秀な耳はしっかり拾ってしまったらしい。カカシがしまった、と思う前にこちらを見据えていた。 「好きですよ、だってこっちがしあわせになれるじゃないですか。そういや今日同僚にもお前は面食いだなと言われましたが」 「そうなんですか?」 「カカシさんはとびきり綺麗なので、そうなのだろうなーとのろけときました」 あはは、とイルカが大口を開けてからから笑う。確かにつきあうことになってからイルカはカカシとの中を隠そうともしなかった。いや、それよりもまず告白だってイルカからだ。たとえカカシの気持ちがどうであっても。 「そりゃありがとうございます。そんなに俺は綺麗ですかね」 だったら例えば任務で重傷を負い、イルカの思う「きれい」を失ったら捨てられてしまうのだろうか。大事なものを失うのが怖くて手が出せなかった臆病な男など綺麗でないと。考える横でイルカは勢いよく首を縦に振っている。 「じゃあ頑張って綺麗でいないとねぇ、顔に怪我できないな」 多少皮肉になってしまったことを自覚しながら零してみれば、イルカがまたきょとんとしたままカカシを見ていた。 「そりゃこんな商売ですけど怪我なんかしてくれないに越したことないんですが。なんでそんなに悲しそうに言うんです?」 本当に不思議そうな顔はいっそあどけない。そうして何かに気づいたか、ふ、とイルカは口の端を持ち上げた。 「カカシさんのそのすっごい美形な顔も大好きですよ。でも俺があなたをきれいだなぁと最初に思ったのはナルトに話を聞いたのがきっかけかもしれません」 「ナルト?」 「仲間を大切にしないやつはクズだと」 あぁ、と思わずカカシは声に出した。それは己の過去と忍びであること全てを背負った、カカシ自身の忍道でもある。まさかナルト経由でイルカに知れているとは思っていなかったが。イルカは身体を起こしてその指先でカカシの髪を梳いた。 「俺もだいたいあなたと同じ歳の忍びですから、嫌でもあなたに関する噂やいろんなものを聴いてしまいます。どれが本当だとか俺にはわからないけれど、あなたがあなたにしかわからない痛みを抱えて生きてきたのは本当でしょう」 やさしい指先は何度も生え際から髪を後ろに流す。俺にはわからないけれど、の部分が少し震えていたと思うのはカカシの願望が事実をゆがめてしまった結果だろうか。イルカにもそこは踏み込んではいけないという意識があるのだろう。誰にだってそんなものはあるに決まっているが、それでも知りたいという傲慢さは恋人だからこそ許されるものだ。 普段なら受け入れられないそれがイルカからならばうれしい。ごめんなさいと唇だけで呟けばイルカが笑った気がした。 「ただ、それでも、仲間を大切にしろと言い切れるあなたはなんてきれいなのだろうと思いました。それが惚れたきっかけなんだろうと思います」 まぁ初めて素顔を見た時もっかい惚れ直したのも確かですがね、照れたように言うイルカをカカシはぎゅっと抱きしめた。なんてこというんだこのひとは。いつかきっと、もし忍びとして以外に死ぬことがあれば、それはイルカの手によって、に違いない。きっとこのひとはたやすく自分の心臓を止めてしまえる。 「ありがとうございます。…いつか、全部言うから、待ってて」 まだ怖い。それでもあっさりと怖さを取り除いてくれるこのひとがいるのだから、きっとこの先言える日が、言えるぐらい怖さがなくなる日が来るとカカシは信じている。 「はい」 いいこ、と頭を撫ぜられてイルカを見れば小さく笑っていた。 「きれいなものはこっちをしあわせにしてくれます。俺の知る限りいちばんきれいなのも、いちばんしあわせにしてくれるのもカカシさんですよ」 カカシが泣きそうになったのをイルカが気づいたかはわからない。ただ寝ましょうと言って目を閉じてしまったからだ。恥ずかしいことを言ったと照れているのかもしれない。 きれいなものがすきだ。 きれいなものがすきなイルカのいちばんきれいなもの。自分がそうであるということに泣きそうになる。そこまで言ってもらえる存在でないとも思うけれど、ただその称号は自分しか受け取ってはいけないのだ。 イルカはきれいなものがすきだ。しかしきれいなものをすきでいられるイルカこそが何よりもきれいだと思う。決して清廉潔白というわけではない。ただ、その人としてのまっすぐさはおそろしいほどだ。 沢山のきれいなもの、一時はその全てが手からすり抜けていってしまったと思っていた。しかしイルカが隣にいる今は、それは確かにすり抜けていってしまったのかもしれないけれどなくなってしまったわけではないのだと知っている。 きれいなものがすきだ。 きれいなものがたいせつだ。 イルカを、ありきたりな言葉で表現してしまえば愛しているのだから、自身もきれいなものがすきなのだと思いながらカカシは瞼を閉じた。 了
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コピ本を作ることだけ決めて、アンケでカカイルが多かったので。
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