雨が降っている。
 大きな番傘が重くて少しふらつきながら、それでも出かける事がうれしくて道の端から端までちょこまかと移動しながら進んだ。青い草を見つけて摘み取り、一つの傘で肩を濡らしながら身を寄せ合う二人へ見せるため駆けて戻る。
「あら綺麗だこと」
「お前が摘んだなら喜んでくれるだろう。お土産にするか」
 笑ってくれた事がうれしくて自分も笑う。ならもっと摘もうと先へ走り、草の間へ足を踏み入れた。すっかり濡れている草履履きの裸足に、雨露を滴らせる柔らかな葉が絡み付いては離れていくのがくすぐったい。
 途中で見かけた雨蛙を捕まえ損ねて派手に転び、着物を泥まみれにして蹲ってしまった。痛みと冷たさと、すこしぐしゃぐしゃになってしまった露草の束。かなしくてしゃくり上げていたら不意にひょいと抱き上げられた。
「ああほら、泣いてる顔見せたらあの人達が心配するだろう」
「お花は無事じゃない。綺麗ね、持っていってあげましょうね」
 ぐすぐすと鼻を啜る身体は機嫌を取る様に腕の中で揺すられ、そっと近付いた温かな指先が頬に散った泥を拭ってくれる。半分重なった傘二つ、その下に居る自分には雨などかからない。触れている温かさ。
 月に一度のお出かけだ。大きな石に挨拶して外食して帰る日。
「泣かないで」
 ああそうだ、忘れてた。あたしはちゃんと泣いてたんだった。
 あたしは。





「なかないで、ーー」





 泣いてないですよ。今は。